朝目が覚めたらザクッザクッと音がする。う〜ん嫌な予感。これからの数ヶ月、急いで外に飛び出さなければいけない日が時々ある。・・・雪かき。
いつもなら、夫と同時に外に出るか、数分遅れて飛び出すのだけれど・・・。朝方何気なく窓から外を見ていた私は、今朝の雪の量が少ないことを知っている。これくらいなら、道路まで雪かきをする必要はないだろう。家の前の車寄せだけなら、夫一人でもそろそろ終わるころ。そう思いながら布団からゆっくり起き上がると、思った通り夫が玄関に入ってきた様子、ドアが閉まる音がする。
鉄瓶をガスレンジにかけて湯を沸かし、カーテンを開けて外の光を入れる。庭の花や実が雪の冠をのせて重そうだ。薔薇は12月になってもたくさんの花をつけていた。華やかな色の大きな花に純白の雪を乗せた姿はドレスで装ったよう。一年中、香りだけでなく綺麗な青い花を楽しませてくれるローズマリーもなんだか寒そうに見える。マンリョウの赤い実も白い実も、まだ鳥に食べられないから雪の下で光っている。菊の株は一面真っ白になって、あちこちで雪の山になっている。
そうだ、何を間違えたかタカサゴユリが咲き出していたっけと目をやると、あ〜あやはり。雪にあってションボリしたようにうなだれてしまった。
一時寒くなったあと、間違えたような暖かい日が続いたから、花も狂い咲く。
まだ雪がちらついている。夫は体の雪を払って入ってくると、「テレビの取材を受けちゃったよ」と言う。今年の長野の積雪は初めてだから、雪かきの様子を撮りに来たそうだ。朝早くからご苦労様だね。正午前のニュースで、雪かきをしている夫の姿がちらりと写っていた。話したことはカットされちゃったけど。
笑いながらニュースを見ていたら、雪の中をちょっと散歩してこようということになった。長野だけではなく、東北や北陸方面なども大雪の予報が出ている。12月半ばの大雪は久しぶりだ。山の中はどんな風だろう。まだ雪は舞っているし、夫は夕方から用があるし・・・、では麓を一めぐりだけにしようと話しながら出かけた。
最初は善光寺さんの雲上殿付近。雲上殿からは長野市が見下ろせるのだが、今日は舞い続ける雪に霞んで白いヴェールに閉ざされている。雪の粒は大きくはないけれど、そして激しく降ってはいないのだけれど、ふわふわと絶え間なく舞い落ちてくる。傘をさそうか迷う程度の淡い雪だけれど、街の景色を隠すほどには厚いということだろうか。
墓地をぬけ、一旦県道に出てすぐ山道に入る。細い道には枯れ草が覆いかぶさっている。落ち葉の上に積もった雪を踏みながらちょっと登ると、あとは森の中を平らに巻く道。夫は登山靴ではなかったので、あまり深入りはしない。
ヤマブキの葉が明るい黄色に染まって残っている。道の脇にはヤマコウバシの茶色い葉が屋根のようになっている。この木は枯れた葉を落とさないで春を迎えるのだそうだ。そういえば、初冬の森に、同じ色の葉をつけた木がポツリポツリと立っているのを見かける。枝ばかりになった落葉樹の森に、賑わいを感じさせてくれる木だ。
太い木の幹には同じような雪の模様がついている。風の向きが描くのだろうか点描画になっている。
雪の上を歩きながら、いつも裏山へ登る道のまた違う風景を味わう。いくつもの木の実草の実が雪の衣を纏っている。その小さな姿を楽しみながら行く。
ざくりざくりと雪を踏んで、霊山寺に着く。そして、県道を横切って伊勢社の森への急な道を降る。雪がかぶさった藪の間を、雪を払いながら降っていく。人の足跡はないけれど、犬のような足跡が自由に駆け回っている。これはキツネかな。以前、この道の畑の脇でキツネを見かけたことがある。雪上の足跡は崩れていてわからなかったが、最近の犬はハーネスやリードをつけているからこんなに自由に歩き回らないよね。
森の動物たちは寒い中で食べ物を見つけることができるのだろうか。今年は木の実が少なかったような気がするが、あまりにもわずかな私たちの移動範囲の中での話・・・さて?
たっぷり雪の積もった小枝を払いながら、私たちは街の中に戻ってきた。