低山、里山、呼び方は色々あるけれど、街の近くにあって人々が休日の憩いに登る標高のあまり高くない山・・・今、長野市の住民になって何度も登っている山のことを書いていたら、昔何度も登った山を思い出した。
三浦半島の南に連なる三つの山、武山(たけやま)、砲台山(ほうだいさん)、三浦富士(みうらふじ)は、縦走して楽しめる山々だ。
武山の山頂には不動尊が祀られていて、山頂まで広い山道が続いているので、子供も楽に歩くことができる。
1月28日の初不動の日や、4月末から5月初めにかけてのツツジ祭りには、山頂に子供向けのお店が出たり、甘酒が配られたりして(1月)賑わう。登山道脇から山頂にかけて植えられたツツジの開花は見事なので、おやつを持って子供と一緒に何度か登った。
記録に残っている初めての登山はツツジが満開の頃、まだ娘が1歳になっていなかったので、おぶって登った。小さかった息子が面白がって撮った写真が残っている。
それから折りにふれ、何度も登っている。
登山口は『一騎塚』。鎌倉時代、和田合戦(1213)の折り、この三浦の地からただ一騎、武次郎義国が参戦し、討死したという。その一騎で向かった勇敢な霊を弔う塚がここに立てられたのが、この地名のいわれとなっている。
一騎塚には、青面金剛が立ち並び、武山不動の前不動となる不動明王像が立ち、狭いながらも厳かな空間になっている。
三浦半島は、相模湾と東京湾の真ん中に飛び出している小さな半島だが、冬は暖かく、夏は涼しい温暖な気候の地だ。照葉樹の豊かな森の中を登山道はゆっくりカーブを描いて続いている。
登山道の途中から海が見える。西を向けば半島中央の家々と、その向こうに相模湾が見渡せるところがあり、東を向けば、京浜急行が走る街並みと東京湾が見下ろせるところもある。
武山山頂のお不動様にお参りをすると、奥の展望台に登る。ツツジに囲まれた展望台からは海がより広く一望できる。
武山の山頂で遊んだら、少し降って砲台山に向かう。左に岩が崩れたような崖を見てゆるく登っていくと、砲台山山頂への分岐点に出る。山頂は左にわずか入ったところ。
余談だが、相模原方面にある老人施設で勉強させてもらったことがある。その老人施設に入所されている婦人の口癖が「あなた砲台山知ってる?私は何度も登ったのよ」、その婦人は横須賀市の京急沿線から来ているとのことだった。三浦半島では知られている山だけれど、相模原の方では知る人も少ない山、私はたまたま知っていたので「砲台山から東京湾が見下ろせますね」などと話すことができ、喜ばれた。数日のお付き合いだったが砲台山の話で盛り上がった、懐かしい思い出だ。
砲台山の山名は、正式には大塚山というのだそうだが、昭和初期に海軍が砲台を作ったために砲台山と呼ばれるようになり、今では大塚山という名前の方が忘れられているだろう。山頂には円形に大きく砲台の跡があった。
砲台山からコースに戻り、三浦富士に向かう。太平洋側の山にはウラシマソウが群生していることがあるが、この稜線上にも群生が見られた。長い髭のような付属体を浦島太郎の釣り糸に見立てたというが、本当だろうか。
三浦富士山頂には、浅間神社が祀られている。他にも大きな石碑が立っていて、古くから信仰を集めた山だということが感じられる。
山頂からは狭い急な階段を降りて、広々とした農園へ下るコースと、急な坂道を滑り降りるような道がマテバシイの純林へ続くコースがある。どちらへ行っても楽しいが、この斜面のマテバシイ純林はなかなか素晴らしい。子供たちと隠れんぼをしながら走り降りたり、夫と不思議な光景を楽しみながら歩いたり、何度もこの道を通った。
純林をくぐり抜けると、ミカン畑の中を京浜急行長沢駅まではすぐ。夏の夕方にはカラスウリがレースのような花を緩やかに開いていく姿を見ることもできた。暗くなるのを待って雄花と雌花の違いを見つけたりしたひとときは、夕暮れのほの柔らかな明るさとともに心の中に残っている。