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花に会いたくて 軍足池(ぐんだりいけ) 880m(長野県)

2020年9月6日(日) 


毎週土曜日に発刊される『週刊長野』に連載されるコラム『北信濃の動植物を訪ねて(増田今雄1949-)』を楽しみに読んでいる。8月末のコラムを見て、水辺の花に会いに出かけてみることにした。


photo 軍足(ぐんだり)池
軍足(ぐんだり)池

長野市街地の北西に葛(かつら)山、その山を越え、飯綱高原に続く広い山村が芋井の集落。その芋井集落にある軍足(ぐんだり)池にタヌキモが咲くという。葛山にはいくつかのルートで登っているが、芋井は我が家からはちょうど反対側にあたるので、まだ歩いていない。山頂から見下ろして、「こちら側も歩いてみたいね」と話したことがあるだけだ。

今回は浅川のループ橋を登り、大座法師池を越えて再び集落まで降りるという遠回りコースで行った。日曜日だからか、道路には車が連なり、大座法師池周辺にはたくさんの人が見えた。コロナ騒ぎの中だけど、屋外での活動なら大丈夫だろうと考えた家族連れなどが集まってきたのだろう。

map軍足池

しかし、一度芋井方面に折れると車の姿は全くなくなった。細い山道を走るのは我が家の車だけ。長い道中、秋の気配を感じさせられる木々のそよぎの下をいく。

軍足池は江戸時代後期に築造された農業用ため池で、南北150m東西100mという大きな池。平成になって整備されたときに、周囲の遊歩道や親水水路も合わせて整備され、桜並木や東屋も設置されたそうだ。軍足池を中心にした周囲は、広瀬ふれあい公園となっている。

photo 広瀬ふれあい公園の看板
広瀬ふれあい公園の看板

photo 駐車場には愛車だけ
駐車場には愛車だけ


芋井の神社脇から池に向かう道は畑の間を縫っていく細い道だった。『ヘラブナ釣り 軍足池』の道案内が出ていたのだが、何回か曲がり角を間違えて引き返した。畑で働いている人を何人か見かけたが、平らなのは畑だけで、道路はどこも傾斜している気がした。その傾斜地に、豊かさを感じる大きな農家が点在している。

photo カワセミ観察小屋がある広場
カワセミ観察小屋がある広場


何度か道を引き返してようやく池のほとりの桜並木の道にたどり着いた。整備された駐車場に車を停め、長靴に履き替えて歩き始める。水の中には入らなくても、周囲の草むらは露を含んで歩きにくいだろうと、長靴を持ってきたのは大正解。広場の草は丁寧に刈ってあったけれど、草の勢いは強く、長靴だったので、安心して歩けた。一歩ごとに足元からバッタやコオロギが跳ねていく。豊かな自然なのだ。


photo イヌタヌキモ
イヌタヌキモ

東屋とカワセミ観察小屋が両端に立っている広場を抜けて水辺に近づく。小さな黄色の輝きが池の面にポツリポツリと立っている、タヌキモだ。正確にはイヌタヌキモ、花を見ただけでは区別がつきにくいようだが、水中に伸びている草体と捕虫嚢を見ると違いが分かるらしい。そう、タヌキモは水中でミジンコなどを捕って食べている植物。捕虫嚢がもっと緑なのがタヌキモ、ここで見るのは黒っぽい色なので、イヌタヌキモ。もちろん、分類するにはもっと見分ける術があるのだが、とりあえずわかりやすいところで納得。イヌタヌキモの写真を撮って、今度は池の中央に向かって張り出している小さな木の橋を渡る。池の表には一面にモチーフのようになった浮き草が広がっている。白い花が遠くまで咲いている様子は迫力満点、家に帰って調べたら、ウォーターダイヤモンドと呼ばれる仲間とのこと。葉の形から、これはヒシ、販売されているものには日本産などと説明がついていた。魚を飼う人は水槽に入れるらしい。水の中を覗き込むと、一つ一つのモチーフが太い根で繋がっているのが見える。それにしてもすごい繁殖だ。


photo 一面に広がるヒシの白い花
一面に広がるヒシの白い花

水の上に乗り出すようにして写真を撮っている私に「落ちないでね」などと声をかけていた夫が「ワッ」と叫ぶ。「気をつけて、蜂の巣だ」。渡って来た橋の上にハチの巣、まだ小さいね。私が渡り始めると一瞬巣から離れて警戒態勢、でもゆっくり歩いて通り過ぎると再び巣の周りに集まっていく。これだけ豊かな放置された自然、ハチだっているよね。

photo 自由を謳歌する昆虫たち
自由を謳歌する昆虫たち

ハチと分かれて、池巡りをしようと歩き始めると今度はたくさんのクモの巣。ジョロウグモかな、怪しい鮮やかな模様のクモがでんと居座る巣の糸は遠くまで伸びていて、ちょっと引っ張っても切れない、強力だ。しかも黄色い。公園の花壇だったらしい囲いの木々には至るところに大きなクモの巣が光っていてこれまた荘厳。夫は時間をかけて糸の様子を撮影しようと頑張っていた。トンボやチョウも、昆虫もあまりにたくさん優雅に舞ったり跳ねたりしているので、写真を撮るより眺めている方が楽しくなっていた。

photo ヒツジグサ,エゾミソハギ,ヤブマメ,ガマ
水辺の植物


photo 蕎麦畑と蕎麦の花
蕎麦畑

ゆっくりゆっくり池の向こう側に周り、蕎麦畑も楽しみながら一回りする。ヘラブナ釣りが今でも行われているのか、池に張り出した桟橋状の板はかしいでいる。「割れているようなものもあるから、ここで釣りは怖いよね」「今は有料で釣りはしないのかな」「そういえば駐車場に釣り禁止の看板があったよ」ほんの少し首をひねりながら一回りして来た。

ガマの穂やエゾミソハギ、ホオズキなどが広がる岸辺から水の中を覗くとヒツジグサの白い花が開いて来た。未の刻頃(午後2時頃)に花を咲かせるからヒツジグサと言うそうだ。私たちはあまりたくさん見ていないけれど、見た人によると、他の時刻にも咲いているとのこと、なんとなく頷ける。

photo 花豆
花豆

山の高いところにばかり気持ちが向いて、海辺や池の周りなどに向かう時間を作らなかったけれど、水辺の動植物の豊かさに感動した時間だった。

そして、畑に咲いていたオレンジ色の華やかな花豆の花にも目を惹かれて、満足感いっぱいで家路に向かった。




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