虫倉山は長野市の西部にあり、合併前の中条村、鬼無里村、そして小川村の三村にまたがるところに位置する。現在は中条村、鬼無里村は長野市になったので、長野市と小川村の境ということになった。
道路マップを見ながら小川村のアルプス展望台への道を登る。目の前に北アルプスが大きく見える、素晴らしい展望台だ。私たちも何度か訪れたことがある。しかし今日は横目に見てその先の県道401号を右に、中条方面に向かう。めざすは太田と言う地名。そこから山道に入って不動滝から登ることにしていた。
昔からの生活道路だと思うが、曲がりくねった狭い道を進む。ようやく太田の地名が見えて、ここから山道に入るのだが、間違えたらしい。しばらく進むと、とても狭く荒れている。それでも、森の仕事をしているらしい車も止まっていたので、間違いと気づかなかった。すごい登り道をさらに行くと、風雨に荒れた『さるすべりコース入口』の標識が隠れるように見えた。
別の登山口に来ちゃった、どうしよう。コースタイムは同じくらいらしいけれど、不動滝も見てみたいし、帰りに疲れてこの道を運転するのも大変そうだし、引き返そう。
決断は早かった。細い道を切り返しながらUターンし、最初の間違い地点太田まで戻った。広い道に曲り、しばらく走るとやはり道は細く急勾配になったが、さっきの道に比べればとても走りやすい。だいぶ走った所に数台分の駐車スペースができていた。
まず、駐車場の直ぐ先の不動滝を見上げる。大きな岩を流れ落ちる幾筋もの滝。見上げると上にもう一段まっすぐに落ちている流れがある。緑一色の森の中に、黒い岩を落ちる滝は見応えがある。
登山道は滝の右側を大きく巻いて登って行く。岩が露出している所もあり、鎖が取り付けてある。気をつけてゆっくり登る。ラショウモンカズラ、キケマン、ユキザサ、チゴユリ・・・花の名を数えながら登る山道は気持ちがいい。
途中『金倉坂』の標識を過ぎるあたりまでは岩がゴロゴロしている。ジグザグに登って行くが、一曲りすると斜面一面にヤグルマソウの巨大な葉が大群落になっていてびっくりする。所々に蕾を持ち上げている。
さらに行くと『柏鉢城跡』という標識があった。木々の茂った中腹にあり、どんな山城だったのだろうと思う。
そろそろ小屋があるはずなんだけど・・・と言いながらひと登りした所に、屋根のようなものが置いてある。振り返ると、素晴らしいアルプスの展望が開ける。白馬連峰から鹿島槍ヶ岳までまだ雪を残して大きい。素晴らしい展望に疲れを忘れる。少し早いが、この大展望を眺めながらおにぎりを食べることにする。山頂でと思っていたが、寄り道をしてしまったので遅くなった。でもこの大展望を前にして食べるおにぎりは最高だ。
どこに座ろうかと置いてある屋根の裏に回ってみたら、なんと、これは置いてある建材ではなくて柱が倒れ、崩れた小屋だった。
昨年11月に起きた地震(長野県神城断層地震)の時に倒れたのだろうか。つぶれている小屋を見て今更のように地震の恐ろしさを感じた。
おにぎりを食べた後は、小屋の脇から稜線歩きをして、もう山頂は近い。まだイワカガミが咲いている。一カ所針葉樹の森を歩くが、その太い幹に『日本記(小川村)→』と書いた板が取り付けてあった。
山頂が見えた所で人声がした。山に入って今日初めての人だ。私たちが山頂に上がるのと入れ替わりのように下りてくる。作業着を着ている二人組、ロープを持っている。近づくと「立入禁止には行かないでくださいね」と言う。当たり前のことをわざわざ言うのは何故かなと思いながら「はい」と返事をしてすれ違った。そして一気に目の前が空になった。
山頂は素晴らしい展望だった。そして、さっきすれ違った人たちの言葉の意味が分かった。一部を残して黄色いロープが張り巡らされている。ロープはピカピカに真新しく、取り付けてある看板も汚れていない。さっきすれ違った人たちが作業していったようだ。展望用の方向指示盤も土台が崩れ、ロープの向こうにある。いくつかある登山コースのうち、不動滝コースのみ歩行可能と書いてある。さるすべりコースも当分立ち入り禁止とある。良かった、朝引き返して。
アルプスの大展望を楽しんで、来た道を下った。晴天の山歩きは最高だ。中間辺りで一人の女性とすれ違った。私たち以外の登山者、作業員以外では彼女だけ。あいさつをしてすれ違う。岩の下のハルユキノシタや、緑の地味なルイヨウボタンを写真に撮りながら駐車場に降りた。