98 手作り教材


転勤して初めて小学部の担任になった時、とても嬉しかったことを覚えています。それまではわずかな期間中学生の担任をしましたが、あとはずっと高等部でしたから、小学生という年齢の小さい子供たちと過ごす毎日が楽しくて仕方がなかったのです。

クラスには何人もの児童がいますが、私が直接担当することになったのはレット症候群の女の子瑠美さんでした。(瑠美さんの保護者からは依頼されて保護者の会の会報に原稿を載せていただいたこともあります。写真掲載もOKで。障害名を明らかにして教育や医療の助けになれれば良いとお考えでした。ここでは仮名です。)

瑠美さんは言葉を話すことができないのですが、ぱっちりとした目で私の顔をじ〜っと見たり、手を出したり引いたり、全身を動かしたり、様々なしぐさで気持ちを表していました。歩くことができるので、好きなところへ勝手に行けそうなのですが、一人で歩くにはバランスが悪く、倒れるように勢いづいて進んでしまうような歩き方だったため不安なのか一人きりで立ち上がることは少ないのでした。普段は私が傍に立ち、腕を支えるようにして添うことで目的地に向かうことができるようでした。

瑠美さんは音楽が大好きでした。好きな童謡などが聞こえると、それはそれは嬉しそうな笑顔になります。レット症候群の特徴として、両手を合わせていることが多く、なかなか手を意思の通りに動かせない様子だったのですが、好きな音楽を自分の力で聴くことができたら嬉しいだろうと、私は考えました。


いろいろ考えて、夫の手助けをもらうことにしました。夫は真空管アンプを手作りしたというくらいの音楽好き、機械いじり好き人間なので、瑠美さんが自分で動いて音楽を聴ける仕組みを作ってもらうことにしました。


木の箱に丸い穴を開け、底にスイッチを仕込みました。穴の中に差し込んである木の棒を押すとスイッチが入り、音楽が鳴るという仕組みでした。その後教材も工夫されて様々なスイッチや仕掛けが市販されるようになって、嬉しい限りですが、一つ一つ手作りで時間をかけて作ったことも楽しい思い出です。

photo・孫の試運転

試運転はまだ小さかった孫の役目です。まだ一人で座ることも難しかった孫ですが、目の前の箱はなんだろうとじっと見るのです。その小さな手をスイッチの棒の上に置いてあげると、よいしょっとばかりに棒を押しました。童謡が流れて、びっくり、目が大きくなりました。でも彼がその仕組みを飲み込むのはあっという間、何度も押しては音楽を聴いていました。


photo・瑠美さんスイッチを押す

さて瑠美さん、机の上に置いたスイッチをまず私が鳴らしてみます。目が大きくなった気がします。両手を合わせて擦っていた手を持ち上げました。そしてなんとか木の棒に乗せ・・・、けれど、うまく押せません。それでも諦めずグッと乗り出して手の動きも一瞬止まり、そして押しました。大好きな音楽が流れます。そして笑顔。

体調が変化しやすく、この一連の動きがいつもスムーズに行くわけではありませんでした。しかし、机の上にこのスイッチがあるのを見ながら椅子に座るときの瑠美さんの顔には、心なしか自信と確信の表情が感じられたように思えてなりません。




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