92 一緒に走る


レイ君たちと過ごした日々につながる扉を、すこ〜し開いてのぞいたので、その1ページだけ思い出してみました。

そのときレイ君たちと過ごした養護学校は、近くに広い田んぼや畑がありました。区画整理されているので、田んぼは四角い畔道で囲まれています。高等部の生徒たちは、朝の運動で何枚かの田んぼを囲む道路を走っていました。

広い田んぼの中の道は、遮るものがないので、走っている生徒の姿が全て見えます。生徒たちは思い思いのスピードで走っているので、コースのどこを見ても生徒が走っています。歩いている生徒もいれば、もう嫌だとしゃがみ込んでいる生徒もいます。

photo・田んぼの中の散歩
田んぼの中を散歩 本文とは直接関係ありません

コースの四隅には教員が立っていて、走ってくる生徒に声をかけています。そして生徒と一緒に走っている教師もいます。これが面白いのです。走るのが得意の生徒と体育の教師が競争をしている時もあり、走りたくないと言う女の子とクラス担任の女性教師が話をしながらゆっくりコースを歩いている時もあり、高等部の3学年すべての生徒が参加しているので、とてもバラエティにとんでいます。


初めの頃、私はゆっくり走りながら、生徒の様子を見ていました。それから、あまり走るのは好きじゃないけれど、誰かと一緒なら走ってもいいかな・・・と感じている生徒の隣で一緒に走ることが多くなりました。

レイ君はものすごいスピードで走っていることが多かったので、遠目で見ていました。でも、レイ君の走り方は一定ではなく、止まってしまって誰が呼びかけても走らなくなることもあります。

しばらく見ているうちに、私はレイ君にはペースメーカーが必要なのではないかと感じました。ただ、「一緒に走ろう」などと誘っても嫌だと逃げてしまうでしょう。追いかけても逃げていくからハイペースになってしまい、どこかでパタっと止まります。そして、そういうときのレイ君は、イライラした落ち着かない動きになってしまいます。そんなレイ君の走る姿をしばらく見てきましたから、同じような係わりはできません。


どうしたらレイ君と一緒に走ることができるんだろう・・・。レイ君は人に言われて走るのは嫌なようです。けれど、一人で気ままに走っていると、自分のペースをつかむことも難しいのでしょう。

私は、『いつの間にか一緒に走っている・・・』という状況が作れないものかと考えました。他の生徒と走りながらレイ君の前になった時がチャンスでした。それはほとんど止まっているレイ君を追い越した時でもあり、ゆっくり走っている私たちの後ろにレイ君が迫ってきた時でもありました。

私はそれまで一緒に走っていた生徒に「ちょっと先に行くね」と声をかけ、レイ君のペースでレイ君の少し前を走りました。レイ君には声をかけず、でもレイ君に添って。


もちろんすぐにうまく走れるようになるわけではありません。何回かそんなことをしているうちに、レイ君は私の後ろ、時には隣を走るようになりました。そんな時は一定のペースで、途中立ち止まることもなくコースを走り通すことができるのです。

言葉は交わさないけれど、レイ君と一緒にジョギングをしているような、どこかゆったりした気分で朝の運動の時間を過ごすことができたのでした。




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