9 しゅくだい2


夏休みはみんな大好きでしょう。そして、宿題さえなければもっと好きだと思っているでしょう。

ところが私のクラスの生徒達は宿題をくださいというのです。自分の体を思うように動かせなかったり、病気の為に痛みが出てしまったりする彼らは家で過ごす時間が長くなりがちです。課題があると集中できるので、少し気分が盛り上がるというのです。

もしかしたら、『不自由』という枠の中での錯覚なのかもしれませんが。

だからこそ、宿題を作る時はこちらも集中します。生徒達の興味を引き、自分の力だけで取り組め、しかも達成感の持てるような内容のものをめざして。


ある年の9月のことです。私は高等部2年の担任でした。私の教室の生徒達は人気者だったので、授業の合間には他の学年の生徒も遊びにきていました。

1年の男子が『夏休みの宿題』と書かれた冊子を手にやってきました。 「最悪です」と言いながら。

どうしたのか聞くと、生まれて初めて宿題をさぼったのだそうです。彼はとてもまじめな好青年だったので、これまで宿題をさぼったことなどないのです。

見れば、表紙裏に数学の課題がいくつかあり、そのあとは日記のページ。国語の課題なのでしょう。1日1ページの枠ですが、白紙が続いています。


彼は文章を書くことがとても苦手でした。私のクラスと合同で過ごした時に、1時間かけて2行ほどの文章を頑張って書いていました。

彼の話す日本語は丁寧な綺麗な言葉です。思ったことをすらすら話せます。ですが、書こうとすると、止まってしまうのでした。もちろん文字は理解できていて、読むことはできるのです。

「先生ならどうしますか?」と聞くので、
「もちろんこれからやりなさい」と言いました。


 彼は、「やっぱりなぁ。僕もそう思うんですが、もう夏休みのことは忘れているんですよ」と、困った顔をします。
「一ヶ月も前のことを忘れるのはあたりまえでしょう。誰が夏休みのことを書きなさいと言った?今日から、毎日書けばいいじゃない」と私が言うと、とても驚いた顔をして、
「え〜っ、それでいいんですか。先生見てくれますか」と叫びました。


担任の先生はもうやらなくていいと言ったそうですが、彼の良心が許さなかったみたいです。私は担任の先生と話し合って、彼の日記「夏休みの宿題」を読ませてもらうことにしました。 彼はもちろん毎日頑張って書いてきました。でも、9月から始めた日記が11月になってもまだ終わりません。夏休みは1ヶ月半しかないのに・・・。ある日数えてみたら、なんと倍の日数分の用紙が綴じてあったのです。これは担任の手違いでした。私たちは大笑い。

写真・ノートを持ってきた生徒

書くことに対する抵抗が無くなってきた彼は、その後も日記を続けました。卒業後みんなで会う時にも、「はい先生おみやげ」と笑いながら日記のノートを持ってくるのでした。





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