89 「お願い」と言ったタカ君


登校の時から、下校の時間までにぎやかに話をしているのがタカ君の見慣れた姿です。「ねぇねぇ、バレンタインディにはチョコレート頂戴」なんて、ちゃっかり女の子に言っていたりします。通りかかった私が「頂戴っていう人にはあげたくないって、そっと静かに待っている人にあげるって」と言うと、「うん」と下を向いてしまうのですが、私が通り過ぎると、まだ数歩のところでもう元気に「ねぇねぇ・・・」と言っている声が聞こえます。

こんな元気な、よく動き、よく話すタカ君ですが、苦手な言葉があります。「ごめんなさい」と「お願いします」です。

実はこれらの言葉は多くの人が苦手だと思います。「ごめんなさい」は自分の非を認める言葉ですし、「お願い」は自分の力の不足を認めることですから。きちんと意味を持たせて言おうとするほど苦手になります。

タカ君は、どんな言葉も心の底から言いたいときしか言いません。とても正直です。タカ君はいつも前をじっと見つめて、精いっぱい頑張っています。いつも自分なりの一生懸命で、張り切った糸のように生きているのです。タカ君の行動は活発すぎてはめをはずすことが多く、おまけに周りのスピードも速く、自分が理解できないうちに叱られ、「ごめんなさい」と謝らなければいけないという経験を繰り返してきたのです。

それから、思いついたことはパッ、パッと行動に移してしまうことが多いので、きちんと人にものを頼むという経験もあまりないのでした。


さて、国語の時間です。高等部は1~3年の生徒を教科ごとにグループ分けして授業をしていました。国語の時間、私はタカ君、ケイちゃん、ミキさんの3人と、他の学年の生徒1人のグループを担当しました。大きな壁新聞を作ろうという単元の学習をしていた時のことです。取材ノートを作り、いくつかのテーマでみんなが取材をしてみました。そしてみんなが取材したものを持ち寄って大きな壁新聞にしました。

壁新聞には読んだ人の感想、質問を記入してもらう欄を設けました。次の壁新聞をさらに良いものにしようというわけです。

photo・新聞作り 1
新聞作り 1

初めはみんなが質問しやすい家族、特に母親をターゲットにして取材活動をやってみました。『お母さんの仕事』がテーマです。お母さん方も気持ち良く応援してくれて授業は進みました。これで自信がついたのか、次のテーマの取材もかなり積極的に取り組んでいきました。そしていろいろ学習しているうちに、新聞には文だけでなくカット絵も載せたいという意見が出てきました。

他の生徒たちは、取材した記事にそれぞれ自分で絵を描き込みました。しかし、タカ君はとても絵が苦手でした。私が「きっと描けるよ、描いてみてごらん」と言うと、少し挑戦してみましたが、タカ君にはちゃんとイメージがあって、そのイメージのようには描けないのでした。そこで、「タカ君、自分で描かなくてもいいんだよ。絵の上手なお友達もいるじゃないの。お願いしてみたら」と言葉をかけてみました。


photo・新聞作り 2
新聞作り 2

タカ君は一日二日悩んでいたようですが、ある日おずおずと絵の上手なクラスメートのところに行って「◯◯の絵を描いてください、お願いします」と頼むことができました。絵を描くことがとても好きなその友達は「いいよ~」と元気に答え、描いてくれました。

タカ君がとてもうれしそうにその絵を見せてくれた時の笑顔、とてもあったかかったです。




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