88 泣いたコウタ君


私はあまり生徒に叱り声をあげません。などと言うと「えっ?」と言われるかもしれません。学校で一番コワイ先生と言われることもしょっちゅうですから。それでもやはり生徒に向かって声を荒げたりするようなことは、したことがないと思います。

ところが、クラスの中でも最も穏やかな、いつもクラスのまとめ役の、コウタ君に向かって強い口調で詰問し、コウタ君を泣かせてしまったのです。


事の起こりはバレーボールの練習でした。コウタ君は部活動のバレーボールに参加していました。バレーボール部は熱心に指導する教員もいて、高等部の生徒はたくさん参加していました。

ある日の部活をコウタ君は休むと言ったのです。部活動担当の教員たちが休まないように説得したのだけれど、コウタ君は頑として自分の主張を伝えて休むことになりました。

私はその日の帰りの会でコウタ君のことをほめました。自分の気持ちをきちんと伝えることの大切さを話しました。

ところが、次に同じことがあった時にコウタ君は自分の言い分を曲げてしまったのです。コウタ君が1番信頼している担任の男性教員が、部活に出るように強く言ったのです(実はコウタ君は部活を休んで代わりにやりたいことがあったのです)。私がコウタ君に「部活やりたいの?」と聞いたら、「やりたくはないけど、やれと言われたから」という答えでした。そこで、私は「やりたくないなら、自分の気持ちをきちんと言いなさい」と言ってしまったのです。かなりきつく。

コウタ君は泣きました。


体育のダッシュの学習の時、こんなことがありました。教員Aさんのところまで行ってターンしてきなさいという指示で始めました。コウタ君は先頭を走り、途中の中間点にいた教員Bさんを超えました。走りながらコウタ君は振り返りました。そして、他の生徒たちが途中の教員Bさんのところでターンしてしまうのを見て、何度か足踏みしてからターンしてしまったのです。自分はもっと先まで行くことが分かっているのに困ってしまって、みんなと同じ所でターンしてしまったコウタ君。


コウタ君は自分一人でできることだったら、努力を惜しみません。数学と漢字の宿題プリントを毎日欠かさずやってきました。日記も短いけれど、必ず書いてきて見せてくれました。コウタ君のために毎日プリントを作るのが楽しみでした。日記の中で使ってほしい漢字を取り入れたり、コウタ君の日常で考えてほしい数の問題を盛り込んだりして作りました。


photo・クラスのまとめ役
クラスのまとめ役

コウタ君が泣いた時、『やりたいのなら、思いっきり楽しみなさい。やりたくないなら止めなさい。人に言われたからでなく、自分の考えで決めなさい。自分が主人公として生きなさい』という私の気持ちがコウタ君に理解できるはずがないと、教員たちに言われてしまいました。

難しいことだったかもしれません。

でも実はコウタ君はその力を持っていたような気もします。争いたくなくて、無意識でもここは従っておこうとふるまっただけだったのかもしれません。私に言われるまでもなく・・・。




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