86 学ぶ形 1机に乗って


姿勢を正してまっすぐ机に向かって座る、これが学ぶ時の正しい姿と教えられて育った世代は私たちが最後でしょうか。それとも、今でも我が国では、その形が大切と、子ども達に一生懸命伝えているのでしょうか。

仕事を辞めてから思い出すのは、クラスの子ども達の姿ですが、よく言われる笑顔よりも、真剣に物事に向かっている顔が目に浮かびます。子ども達が自ら飛躍しようという時の、物事に向かう時の真剣な眼差し、きついとも思えるほどの真摯な表情・・・みんな懐かしい大切な、私のエネルギーの源です。


その生徒達の学ぶ姿は、机に向かってまっすぐ座る形ではありませんでした。身長が伸びないという障害があったコウ君は、実験をするときに目の前でよく見えるように、よく机の上に乗って活動しました。

実験のためにマッチで火をつけるときに「そんなの簡単だよ」と言って、真っ先にやってみたのですが、実際は、なかなか火は点きません。家族が点火するのを見ていて、自分もやったつもりになっていたこと・・・に気がつきました。実はそういうことは案外たくさんあるのです。体が思うように動かせない彼らにとって、目から、耳からの情報はとても大切です。そして、取り入れた情報を自分の経験と錯覚してしまうことも、時々起こるのです。


その時は理科の実験で、〈燃える〉という現象について学んでいました。金属や、布、紙、綿など、灯油ランプの上に台を作って挑戦しましたが、炎の様子、炎を受けても燃えない様子などを、生徒たちはつぶさに見ていました。

教室の机を中央に寄せて、大きなテ―ブルのようにした上で実験をします。そのテーブルの上に座り込んで、熱心に観察するコウ君の姿は、今でも私の目の中に焼き付いています。「簡単だよ」と言った、マッチの火を、何度も挑戦した結果、点けられるようになった時の、感動的な「できた!」という叫び声とともに。


photo・畳の上で勉強
畳の上で勉強(鬼と?)

また、ノートにまとめる時も、頻繁に痛みがやってくる足をかばうために、教室の半分に敷いた畳の上で、背もたれに寄りかかりながら作業することが多かったのです。器用な手で、紙を切ったり貼ったり、あるいは色を塗ったり文字を書いたり、学ぶことが大好きだった彼は、痛みと戦いながらいつも真剣でした。

もちろん悪ふざけも得意で、私はよく「鬼のみえこ」などとからかわれ、角付きの似顔絵が教室中にあふれていましたが・・・。


中学までの普通級での学習は、彼にとって楽しい学ぶ時間でもあったでしょうが、痛みと隣り合わせの彼が毎日通学するには大変な環境でもあったでしょう。とても欠席が多くなってしまい、継続して授業を受けられないことが多かったと聞きました。

3、4種類の抗生剤を交互に使ってなんとか痛みを遠のけようとしていた彼は、私よりもずっと薬のことや感染症のことに詳しいのでした。そして何よりも、自分が知らないことを知るということ、学ぶことに熱意を持っていました。

いくつかの障害と、たくさんの痛みと戦いながら彼が言った言葉が、今も私に勇気をくれます。

「こんな障害を持った僕なんか、生まれてこなければよかったんだと思うよ。でも、絶対家では言わないんだ。だって、お母さんが悲しむでしょう」。




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