83 応援してるよ


毎週1回、同じ曜日の朝に善光寺さんの境内を通って出かけています。

だいたい同じ時間に通ると、同じ人に会うのは通勤や通学の時にもあります。私は週に1回ですが、それでもやはり同じ顔を見ることになります。


その男性は、ダウン症候群でした。ほぼ毎回同じ道を歩きます。暑い夏も、寒い冬も私と前後して同じ方向へ歩いていきます。時に私が気分を変えて違う道を歩いていると、なぜか彼も同じ道を通っていて、「あ、彼だ」と、私は心の中で叫び、嬉しくなってしまいます。

頻繁に会うので、見るともなく彼の姿に目をやっていると、彼は毎朝何かしら持っています。眼の前でいきなり消えたので、どこへ行ったのかなと思って見ると、脇の自動販売機で缶コーヒーを買っていたこともあります。彼は歩きながらコーヒーを飲んで、ずっと先の自動販売機の缶入れに缶を捨てていました。

あるときはコーンに入ったアイスクリームを舐めながら歩いていました。

のんびり歩いている私と同じスピードで、彼ものんびり歩いていくのでした。いつも同じ角を曲がっていく様子なので、作業所などに通勤しているのでしょうか。


私は長野に引っ越してきてから過去の仕事に関わるような情報は全く手に入れていないので、養護学校を卒業した子どもたちが通っているだろう作業所や施設をほとんど知りません。けれど、時折善光寺の門前に店を出して野菜などを売っている姿を見かけます。そんな時は、ついじっと見て、心の中で『頑張ってね』と呟いています。

あまりたくさんの現場に遭遇しないのは、やはり彼らの仕事の場が出身学校などの限られた場所が多いからかとも思い、それは寂しいことだとも思ってしまいます。


週に1回会う彼には、つい目が向かいます。『今日はいつもよりゆっくり歩いているな〜』とか、『弾んでいるような足取りだな』などと、人ごとではないような親しみを一方的に感じてしまいます。そんな私の思いなどとはもちろん無縁に、彼はゆっくりと毎週同じ道を歩いています。


その日も善光寺さんの仲見世通りに入るところで、脇道からやってきた彼に出会いました。私の少し前を歩いていきます。手にはやはり何か持っています。仲見世に入る前にどこかで購入してきたのでしょう。

のんびりした足取りで、開店準備をしている仲見世をのぞいたりしながら進んでいきます。善光寺の仲見世は一斉ではなく、各店ごとにどこかのんびりした空気のなか、開店していくのです。

そんな雰囲気を楽しみながら、私ものんびり歩いていましたが、ふと見ると彼は一つの店の前で立ち止まっていました。商品の箱を並べているそのお店の主人らしい女性と話しているようです。少し離れていたのですが、笑い声が聞こえました。

私が近づくと、ちょうど「じゃね〜」と、別れるところだったのですが、彼が何か言ったのに返事をするように、お店の女性が大きな声で言うのが聞こえてきました。

善光寺仲見世
写真は本文とは直接関係ありません

「応援してるさ〜」。


ニンマリ笑って、彼はまたゆっくり歩き始めました。私はちょっぴりあったかくなった気分で、腰に手をあてて彼の後ろ姿を見送っている女性の背中を見ていました。




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