78 どっちが先生?


高等部1年から3年まで共に学び、卒業を見送った生徒たち、その学校には私も彼らと同じ3年間だけ勤務したので、とりわけ濃い思い出の生徒たちです。

しかもそこでは生徒だけでなく、保護者からも沢山の応援をしてもらったので思い出は次から次へと湧いてきます。


保護者たちは卒業してから1泊旅行を計画して、その時は私も誘ってもらいました。それだけではなく春の花見遠足、クリスマスパーティ、成人の祝いパーティ・・・と、いくつもの企画をして、その都度誘ってくれるのでした。

私は間違っているかもしれませんが、卒業してその人の生活が流れ始めたら、こちらから近づきすぎないようにしようと考えてしまいます。もし困ったことがあったり寂しいと思ったりした時にはいつでも傍に寄り添う心はあるけれど、自分で歩き始めた生徒に、こちらの思いを負わせることはしたくないと思ってしまうのです。


卒業後初めての1泊旅行に誘われたとき、私の心のどこかに仕事気分がありました。在学中の宿泊学習や修学旅行の時を思い出し、気を引き締めて子どもたちに向き合おうと考えていました。

ところが、保護者たちの第1声は『先生、今日は子どもたちとたっぷり遊んでね』でした。みんな先生と会うのを楽しみにしていたから、つきあってあげてねとも。子どもの世話は親がするから先生は学校の時のように世話しなくていいからねと、追いかけるように笑います。

しかも、驚いたことに保護者たちは事前に集まって子どもの情報を交換し、互いに理解し合い、助け合えるところはできるだけ協力しようと『勉強』したのだそうです。

「ほら、こんなのを作ったのよ」と、小さなレジュメを見せてくれましたが、それは私たちが仕事で作った『修学旅行のしおり』などよりは細かく、子どもたちの癖や行動の対処法などが書いてありました。

私がビックリすると、保護者たちは「何を言ってるの、先生たちは毎日してたことでしょ」と、笑いながら背中をたたくのでした。

最初の1泊旅行の時、楽しんでお風呂にも入ってお部屋で賑やかなパーティが始まりました。それぞれの近況報告なども含めてお茶を飲みながらダンス好きな子どもたちは踊りながら・・・。

そして、突然『先生の話』と、私に話す役割が振られました。いつも突然この時間が来るのです。今日は無いかなと思っていると『締めのご挨拶をどうぞ』とか・・・。保護者たちはみな話し上手で、ユーモアのセンスも素晴らしいので、会場は笑いに満ち、子どもたちも楽しそうで、私はいつもモタモタしてしまうのです。

それでも、いつもなんとかその場をやり過ごしながら、冷や汗をぬぐっていました。そしてある時、「もう卒業して、私はみんなの先生ではなくなったのだから、先生と呼ぶのは止めて欲しいんですけれど・・・」と、お願いしたことがあります。すると、一人のお母さんが、大きな声でこう言われ、賛同の大歓声が起きました。

『なぁにを言ってるの、先生。人生で一回先生と呼んだら、その人は生涯その子の先生なんだよ』

ああ、私の仕事って、そんなに恐ろしいことだったとは!

その後私は気持ちを百回くらい締め直したのでした。





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