73 何が見えるかな


善光寺さんには沢山の小学校や中学校から修学旅行や社会科見学といった行事で子どもたちが訪れます。時には一日がかりで写生の勉強をしている生徒たちもいます。広い境内の思い思いのところに画用紙を広げ、筆を走らせている姿を、カメラマンらしい人が「はいそこの3人、こっち向いて」などと写しているのも、過ごしやすい季節の風物詩のようでいいものです。


先日買物の帰りに善光寺さんの境内を通った時にも、小学校の4、5年生くらいでしょうか、子どもたちが学習用のノートを持って善光寺さんについての話を聞いていました。説明しているのはお寺の関係者でしょうか、そして、子どもたちの後ろに立っているのは多分教員でしょう、子どもたちと同じようにうなずきながら聞いています。


そんな風景を眺めながら山門の階段を上った時、私と夫は思わず顔を見合わせました。
「一緒に来たんだね」と言う、夫の声にうなずきながら、さりげなく目を離せません。


本堂から山門までの広場の中央には広い石畳の道がありますが、数年前にさらに広くしました。その新しい石畳は昔のものと比べると平になっています。表面には滑り止めのように凹凸が刻んでありますが、全体的には舗装された道に近くなっています。


その道の一番端っこで、石畳上に小さなカメラを滑らせながら、その画面をのぞき込むように四つ這い姿勢のままゆっくり進んでいる子どもがいました。

思わず頬を緩ませて見てしまう私に、再び夫の声。
「止めさせようとしないのがいいね」。

その子どもの脇に添うように、半歩後ろから見守りながら歩いている女性は教師でしょう。小柄な年配のその女性は、黙って子どもの傍を歩いています。その姿からは、
『大丈夫だよ』というオーラが聞こえてきます。


しばらくすると、ついに石畳が終わり、砂利道に突き当たりました。
さぁ、どうするかな。

子どもは何もなかったようにカメラを持って立ち上がりました。そこで初めて女性が少しかがみながら子どもに声をかけました。『みんなのところに行こうか?』というふうに、押し付けがましくなく小さな声で話しかけたようです。

カメラを持った少年は、うなずいたかなと思う間もなく楽しそうに弾むように山門をくぐっていきました。もちろん隣、半歩後ろには女性が歩いて行きました。


特別支援教室の担任は、担当する児童の学年の行事に参加する時、とても神経を使うと言います。毎日同じ学習をしている訳ではないのですから、学習内容はもちろん、日々の生活の中で流れる時間も違います。でも、行事となるとそこにはやはり日常とは異なる制約が生まれます。子どもたちに強いられる緊張が、パニックや発作を誘発してしまったり、疲れて体調を崩したりしてしまうことも多いようです。

善光寺さんでちらりと見せてもらった二人のように、安心していられる時間や空間を作り合える子どもと教師、素敵です。




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