71 やる気


孫がバレエを習い始めてもう8年近くになります。バレエシューズを履いてつま先を精一杯開いていた幼稚園の頃を思い浮かべると、自然に頬がゆるんでしまいます。

一生懸命レッスンして、ピルエット(つま先立ちで回転する)やグランジュテ(大きく足を前後に開いてジャンプする)などもできるようになりました。

その孫が中学生になり、バレエ留学をしています。今は通信事情も便利になったので、異国で頑張っている孫とも、簡単に連絡し合えます。それでも、言葉の通じない国ですから心配はつきません。友だちができたと一緒に撮った写真を見せてくれたりすると、ちょっとホッとします。『どうしているかな。レッスンは厳しいかな』などと思っていたら、ふっと過去のひとコマを思い出しました。


もう数年前のことになりますが、世界のトップダンサー、ニーナ・アナニアシヴィリさんの公開レッスンが二日間あり、孫が参加しました。色々な地域からやってきた小学生の少女たちがバー(バレエの基礎レッスンの時つかまる手すりのような物)につかまり、ニーナさんが熱心に指導してくださいました。

手を取り、足を取りという文字通り、少女の足をつかんで『ウ、重い!』『こんなに重くては思うように上がらないでしょう』『羽のように柔らかく』などと、ユーモアたっぷりの指導は、見ているだけの私にも楽しい時間でした。

1日目に孫はずいぶん沢山指導してもらいました。上体の伸ばし方、股関節の開き方、後ろに反り返らないなど具体的です。


そして翌2日目のレッスン、昨日言われたことをどのように体で表せるのか興味は尽きません。見ていると孫は前日注意されたことをきちんと意識して動いているようです。

私は思わず『できるんだ』と、心の中で叫びました。

たった一回注意されたことでも、本人にしっかり受け止める気構えがあれば、覚えて体の動きに反映できるのです。自分の孫でありながら感動しました。

その少し前、孫たちのバレエ教師が「注意してもちゃんと聞いてくれないのよ」とこぼすのを聞いていた私には驚きの姿だったのです。

ニーナさんが、『指導者とは子どもたちのどこを直したらよいかがきちんと見えていなければいけない』と、真剣な顔で何度も話していらっしゃったのが印象的でした。そしてきちんと子どもにそれを伝えなければいけないのだ、と。そうやって子どもたちの気持ちをさらに高みに向かうように引っぱって行くのだと。


ニーナさんの話を聞いてふと、私はずっとずっと昔のことを思い出しました。当時、私は毎朝始業前に生徒たちの自主学習時間を作って係わっていました。私にとって教師の仕事とはどれだけたくさんのことを教えたかではなくて、子どもたちの『学ぶことは楽しい』『一生学び続けたい』という気持ちを育てることだと思っていました。

そんなとき、隣のクラスの担任が私に向かって呟いた一言は、「先生のクラスの子どもたちはやる気があるからいいですね」。

生徒のやる気を育てることこそ、私たち教師の目指すところではないでしょうか。まだ若かった私はその教員に向かってそう言えませんでした。そしてその後さらに力を入れて仕事に向かうことで、その気持ちを癒してきたのかもしれません。


✔︎ ニーナ・アナニアシヴィリ:ジョージア国立バレエ団の芸術監督。
ニーナさんの言葉部分は筆者の意訳なので、文責は筆者にあります。



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