70 書きたい!


生徒たちは毎日宿題をしてきます。私は自分の子どもの頃のことを思い出すと、宿題なんて嫌いでした。家は農家だったので、たくさん手伝わされました。それ以外の時間は本を読むのが大好きだったので、宿題はたいてい学校で済ませてしまいました。友人たちも宿題が好きなんて言う人はいなかったように思います。

ところが、生徒たちはどうやら宿題を楽しみにしているようなのです。生徒によって違うプリントを用意するのですが、毎日数種類のプリントを持って帰ります。例えば、計算のプリントと漢字を練習するプリント、あるいは短い日本語を書き写すプリントなど。その他にノートに日記も書いてきて、提出します。毎日の授業と宿題の確認、実はかなりの時間を取られましたが、生徒が一生懸命やってくるものですから、私としてもおろそかにはできないのでした。


そんな中で宿題だけでなく、教室でも熱心にプリントを書き込む生徒がいました。香奈さんは文字の読み書きはあまりできなかったのですが、自分の名前など、いくつかの文字を書くことができました。そして、勉強することが大好きだったので、みんなと一緒に教室で学習している時に、個別のプリント学習をすることにしました。

写真・文字の写し書き


最初は香奈さんの生活に係わる具体的なもの、目、口、耳などの絵でも分かりやすいものの絵を描いて、その隣に文字(ひらがな)を点線で書き、香奈さんが点線をなぞって書けるようにしました。香奈さんはやっていることの意味を理解して取り組んだので、すぐにその方法は卒業しました。次は、絵の隣に文字を書いておき、香奈さんはそれを見て書くようになりました。数のプリントも平行して学習しましたが、香奈さんは数えるものを一つ一つ指差し(独特の半分握ったようなげんこつで指すのですが・・・)、確認しながらやっていました。同じように文字も一つ書いては指差し、また書いては指差しをして進めていました。


それまでの香奈さんにとってクラス一斉の授業は分からないことも多かったと思います。いくつかの教科はそれぞれの学習状態に合わせてグループ分けをして進めていたので、香奈さんにも分かりやすく勧められましたが、クラス全員での学習や学部全員の集会などはひとり一人の学習ペースに合わせることが難しく、一部の生徒にとってはとても難しい状況だったと思います。

香奈さんも周りを見ながら一生懸命理解して着いてきていましたが、時にはやっていることが分からなくなり大きな声を出す姿も見られました。

それが最良の方法とは言えませんが、みんなの中でも個別の課題を熱心に行うようになってからの香奈さんはとても落ちついてきました。

学習はどんどん進み、写真や、顔の表情の絵に合わせた文字なども書くようになりました。宿題は休日の分まで枚数を要求して熱心に取り組んでいました。


写真・習字

在学中に文字を読みこなすところまでは進めることができませんでしたが、保護者の方は香奈さんが書くことに意欲的なことに感激され、香奈さんは習字を習い出しました。そして私たちは、香奈さんが書いた夢のある書を沢山見せてもらうようになりました。

香奈さんの卒業と同時に私も転勤しましたが、卒業後も、香奈さんからのとても印象深い書のお手紙をもらいます。




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