69 みんなと一緒


担当しているクラスは高等部1年生。13人の生徒がいます。養護学校の高等部は、平均的に男子生徒が多いのですが、私のクラスは女子が8人、男子が5人の珍しい編成でした。ほとんどの生徒が話せるので、1日中賑やかでした。

13人の生徒のうち2人が言葉を話せません。その一人、香奈さんは構音(口や舌を動かして発音する)が難しく、うまく話せません。

ST(言語聴覚士)の話では、香奈さんは数百の単語を理解し、話しているということでしたが、実際に周りの人と意思の疎通ができる単語はごくわずかでした。

周囲のお友だちは言葉でコミュニケーションをしているけれど、香奈さんの言葉を聞き取れる人はいません。また、周りの友だちの会話は、香奈さんには聞き取ることが難しいようでした。自分の意思をはっきり持っている香奈さんですが、自分の思いがうまく伝わらなかったり、周囲の動きが理解しにくくなったりすると、大きな声を出して回りの物を蹴って、存在をアピールするのでした。

写真・黒板の絵

香奈さんは言葉こそうまく話せませんが、毎日一人で電車に乗って通学してきます。定期をもって改札を通り、駅から学校まで歩いてきます。きちんと制服から学習服に着替え、ホームルームが始まるまでに教室に入っている、模範生徒です。

明るくて黒板に落書きするのも大好き。なんだか目ばかり大きな、へんな顔を描いて、これは先生だよと身振りで示し大笑い、なんてこともよくありました。

決まったことをしている限り落ちついている香奈さんですが、ちょっとしたこと(周りの友だちにはそう思える)で大きな声を出す、分からない人になってしまうのです。香奈さんにとっては理解できないことが起こっているのですが、分かってもらえません。


今振り返れば、私は思い上がっていたのだと思います。香奈さんが周りの人との意思疎通をもっと的確にできるようになればいいと思いました。香奈さんと出会う前にも、言葉を話すことがうまくいかない生徒たちと色々なコミュニケーションツールを作ったり、活用したりしてきました。だから香奈さんとも新しい発見ができるのではないかと、期待したのでした。

クラスの教員と話をし、香奈さんと個別に学習する時間を作ることにしました。保護者にも説明し、私の頭の中には様々な方法、計画が詰め込まれていました。

けれど、大失敗。

香奈さんは自分だけがみんなと違う場所に行くことを嫌がりました。

私は自分なりに香奈さんに教材を見せたり、動きを説明したりして伝えたつもりでしたが、興奮して私の足を蹴飛ばす香奈さんに届くはずもありません。

思えば、小学部に入学してから高等部までずっと、仲間と一緒に過ごしてきたのです。香奈さんはお友だちをとてもよく見ています。教員の動きもよく見ています。そうして周りの人と同じことをしながら自分の居場所を確保してきたのでしょうか。

そんな香奈さんにとって自分だけが違う場所に行くことは、どれだけ大きな不安を覚えたことでしょう。全く私の頭はスカスカです。


方向転換です。まず香奈さんが安心して過ごせること、その中で新しいことを作っていくこと。みんなと一緒にいる中でできる、彼女の課題を作りました。書くこと、描くことが好きな香奈さんだったので、文字と絵と見比べながら紙の上に意味を見つけていくという課題、静かな始まりになりました。




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