64 家庭訪問いつ来るの


新学期が始まって、連休も終わるとようやく毎日の流れが落ちついてきます。

そして、5月の半ば辺りから家庭訪問が始まります。子どもを持つ身としては受ける方も緊張しますが、行く立場になるとそれはまた緊張するものです。とは言うものの、それは校内の雰囲気で、私自身はいつでも誰にでもけっこうあるがままで接してしまうので、実は時間の調整が難しいだけで、気持ちの方の緊張はあまり無いのでした。


その春入学してきた私のクラスは男子3名の、小さなクラスでした。近隣の各市から進学してきました。しかも全員中学の普通級からの進学でした。特別支援校(当時、養護学校)高等部に進学する多くの生徒は中学の特別支援級に在籍していましたから、たとえ3名とは言え、クラス全員が普通級出身というのは珍しいことでした。

全員日本語で会話をすることができるうえ、2人はマヒがあるものの歩くことができました。3人の生徒に対し、私と男性教員のペアー、今思えば贅沢なクラス構成でした。

その当時の養護学校では1人担任にはしないといううなずきの様なものがあったのです。そのため、私は3年間この5人のクラスで過ごすことができました。そこでとても貴重な、輝きの時間を持つことができたのです。


連休が終わってしばらくするころ、生徒の一人タックンがそわそわしています。何か言いたそうに私の周りをウロウロしているのです。そしてようやく「ねぇ、家庭訪問いつ来るの?」と、聞きました。

「なに?来て欲しくないの?」と笑うと、タックンはとても真面目な顔をして「違うよ!早く来て欲しいんだよ」と大きな声で言いました。そしてとても真剣な表情のまま、「先生、家にきて僕のことを話してくれるんでしょう。早く来て、ちゃんと話して欲しいんだよ」と、今度はちょっと小さな声で言いました。


タックンは聞いたことをすぐ理解し、いえそれどころか全部聞かなくても先を読み取るくらい理解力が高いのです。電気部品などの説明書は絵を見ただけでどうすればいいか分かります。ところが、タックンにとって文字は恐ろしく難解なものでした。ずっと後に「紙の上の文字を見ると、全部の文字が重なりあってグチャグチャに見えてしまう」と話してくれました。

1行の文を書くために、何回か空中に目を留め、じっとにらむようにして「あった!」と叫んでひらがな1文字を書いていた入学当時の姿は印象的でした。じっとしているとき、「どうしたの?」と聞くと「今、(ひらがなを)探してるから」との答え。

学習障害とか、識字障害とか呼ばれる状態でしょうか。


保護者は、タックンがただ怠けて勉強しないから字が書けないのだと思っているそうです。そして厳しく叱られてしまうので、『自分は一生懸命やっているけれど難しい』のだということを、教師から話して欲しいと言うのです。

家庭訪問の当日、お母さんは「そうじゃないかとも思っていたのよね〜」と一言。

とは言うものの、障害だからとただ諦めるのでは何も意味がありません。「頑張れ、頑張れ!」と言うばかりでも効果がないでしょう。

具体的な方法を考えて、ゆっくり学習を進めて行くことを約束して帰りました。


その後様々な工夫をして、タックンは短い文を読んだり、書いたりできるようになりましたが、それはまた後の話にしましょう。




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