62 ちゃんと聞いてるよ


舞さんが中学部に入学してきました。私はクラスのリーダーをやりながら、舞さんと主に係わることになりました。小学校5年の時の交通事故で低酸素性脳症になってしまったという、出会った頃の舞さんはほとんど自力で動けない状態でした。

小学生高学年らしい伸びやかな全身をフラットに近い車椅子に横たえ、半眼のようなうつろな瞳をじっと前方に向けている舞さんを前に、私は一体何をしたらいいのだろう・・・という思いが起こるのでした。


自力で動くことはほとんど無い舞さんですが、動きはあります。大きな音がしたり、移動中の車椅子が段差にぶつかったりすると、舞さんはビックリするようでした。棒のように伸ばしたままの足を腰のところから曲げてぴょんと跳ね上げます。反射の動きかもしれませんが、あまりに激しく跳ね上げる時もあり、私は段差のあるところではもちろんゆっくりと衝撃が少ないように車椅子を押し、舞さんの耳元で「段差があるからガッタンするよ」と、話しかけるようにしました。

精密な検査をして、見え方、聞こえ方の情報をもらう方がより有効な係わりができると、専門家からアドバイスをもらいました。確かにうなずけます。しかし、舞さんの『事故のあとショックで1年くらいは半狂乱だった、ようやく少し落ちついてきた』と言うお母さんの気持ちを思うと、私には言い出せないのでした。

だから、『舞さんは障害を受けてしまった脳のどこかの回路が復活しないために、自分の思いを全身に伝えられないけれど、様々な外界からの刺激を受け取っている』というのが私の係わりの土台でした。

まずは舞さんが『聞いている、見ている』と信じて係わりを始めるのです。

登校するとクラスメートの顔写真と名前を書いたカードを舞さんの見える位置にかざして名前を読んだり、その日の様子を伝えたりしました。それから同じクラスのグループの先生には「◯◯です、今日も一緒に勉強しましょう」などと話しかけてもらいました。話す時にはそっと舞さんと手をつなぐようにしました。


あいさつが終わると、体の部位を伝えながら静かにタッチしました。手のひら、腕、肩、お腹、足も・・・。敏感な顔は、一般的にはあまりタッチしない部分ですが、できるだけ外側から、そして包むように触れる面積を多めにして、頬、あご、額などさわりました。「ここはあごですね。ここを動かしてお話ししたよね」「ここはほっぺだね。舞さんのほっぺはすべすべ、先生のほっぺはシワシワ」などと話しかけながら、ゆっくり、ていねいに。そうそう、舞さんの手をそっと動かして、私の顔に触ってもらうこともしましたっけ。

写真・座位で学習

それから舞さんを抱き起こして、長座(足を伸ばしたまま座る姿勢)の舞さんの後ろから抱きかかえるようにしてリズムに合わせて緩やかにダンスもしました。大好きだという人気歌手のグループのCDを家から持ってきてもらいました。


1学期の半ばのことです。いつものように朝の係わりをしたあと、CDラジカセのスイッチを舞さんの手で押せるように近づけ、私が手を添えて一緒に押しました。

舞さんの大好きなハイビートの曲が流れ出しました。すると、それまでいつも半眼だった舞さんの目が徐々に大きく見開かれていくのです!今思い出しても感動します。

『私はちゃんと聞いてるよ』と言う、舞さんからの声が聞こえた瞬間です。そして、舞さんと私たちとの思いを伝え合うという扉が、すこ〜し開いた瞬間でもあったのです。





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