61 しごと仲間


他の人より短い教員生活でしたが、面白い経験をさせてもらいました。臨時的任用教員(産休や、長い期間の研修の代わりなど)や非常勤講師(3ヶ月以内の、ケガや研修の代わりなど)、市立の学校も経験したあと、県立の学校に勤務。それから、国立の学校に勤務。そしてまた県立に戻って定年を迎えました。


その出会いは、国立から県立に移る時のことです。形の上とは言え、いったん国立の学校を退職し、新たに県立の学校に採用されるというシステムなのです。そこで、4月1日に県の指定した場所に行って採用の辞令を受け取ることになります。

私は、数年ぶりの儀式に少しだけドキドキしながら県庁所在地の指定された場所に赴きました。今度の勤務地は県庁所在地からは遠いので、チョッピリ面倒だなぁという思いも潜めていました。

着いてみると、思ったよりたくさんの男女が集まっていました。県立学校同士の移動の人は直接勤務校に行っているはずなので、ここにはその他の変則的な移動の人、そう私のような人だけなのです。思ったより多い、集まった人たちは、互いにまだ見知らぬ人のぎこちなさを纏ってどことなく澄ましています。もちろんかく言う私もその一人です。

そのうちに係の人が来て、部屋の中に並ぶようにと指示されました。驚いたことに床に印があり、告げられた順に並ぶのだそうです。そして細かに辞令の受け取り方の説明もありました。

私は心底あっけにとられました。『私は幼稚園児か?』。辞令をもらうことは形ではなく、その学校に勤務すること、つまり教師としての仕事を自分の中でうなずくこと、ただそのことであるはずです。

心の中で笑いたいような自分を持て余しながらも、次にどんなビックリが、何が、起こるかの興味を隠し、指定されたところに立ちました。


その次の瞬間です。隣に立った背の高い男性が少しかがむようにこちらに顔を寄せ「県はいつもこんなことをしているんですか?」と囁きました。

吹き出さなかったのが不思議です。

『そうだよね、あなたもそう思うよね』と内心うなずきながら、「私は国から来たのですが、初めてなのでいつもかどうか、わかりません」と応えました。すると彼は「私は市からの移動です。なんだかおかしいですよね」と、やはり笑いをこらえるように生真面目な表情をして言いました。


儀式が始まりました。私たちは順番に辞令を受け取りました。隣の男性は同じ勤務校でした。つまり私たちは、これから勤務する学校順に並ばされていたのです。

「では後ほど」と言葉をかけてその男性と別れ、午後勤務校で再会しました。勤務校では、私たちを含め他校からの移動の人も新採用の人も全てが辞令を受ける式がありました。そこで受け持ち学級が発表になり、私たちはなんと同じクラスの担任になったのです。

「どんなに重い障害がある子どもでもどこかで何かを発信している、それを受け取って関係を築いていくのが教育だ。子どもが発信したわずかなことでその子の周囲が変わり、それを知ることが子どもにとっての学びになる」と話すその男性との出会いは、新しい環境での緊張を解く、なかなか頼もしい出来事でした。


あれから時が経ち、私もその男性も定年退職して、それぞれの地で「ようごがっこのせんせ」だった頃を噛み締めて生きています。





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