60 卒業したくない! 4 もっと勉強したい!


生まれた時に重い病気だった圭くんは、心臓に課題を残したまま成長したこともあり、高等部の時には身長体重ともに小学低学年の平均値ほどでした。視力はほとんど無いという資料でしたが、私は圭くんの日常の様子から彼は見えていると信じました。聴力については測定できない(見えないと思われていたので・・・)とのことでした。生活の中で圭くんとやりとりしながら、係わりを進めていくのですが、呼びかけや、音楽、楽器の音などにはほとんど興味を示さないので、圭くんは聞くことより見ることに頼っているのだと感じました。


日本語を話さない圭くんですが、自分の意思を動きや表情でかなり意思的に表します。圭くんの得意な見ることで、周りの人にも伝えやすい意思表示の方法はないかと考えました。ある時、パーティグッズの売り場で面白い物を見つけました。白いプラスチックの棒です。棒の先に10㎝くらいの白い円盤状の板が取り付けてあります。隣には裏表に◯と✕が印刷してある物もあったので、◯✕クイズに使う物なのでしょう。白い板の方を数本買って、そこに色の印を貼付けました。圭くんと出かける部屋にそれぞれ違う色の印を貼って、出かける時には圭くんにその印のついた棒を渡して、そこに行くことを伝えました。

賢い圭くんは、渡された棒を持って目の前でちらちらかざしていましたが、始めは興味なさそうにふんとほっぽり投げることもありました。だんだん、持ったまま移動するようになりました。そこで、次は2枚の棒を圭くんの前にかざし、「今日はどっちの部屋に行きますか」と問いかけたのです。圭くんは私が両手に持った棒を順番に目の前に持って行き、一方を選びました。選んだのは2階にある部屋です。そして、棒を持ったままエレベーターの前まで来ると、その棒をポイとテーブルの上に置きました。

「もうエレベーターに乗るから、分かったでしょ」と言っているようでした。


圭くんの理解力は素晴らしく、またその力を伸ばすための保護者の行動力も素晴らしく、私はその後も色々なエピソードを聞かせていただきました。

彼は通院のために学校を休まなければならないこともありますが、車に乗って出かけ、学校との分かれ道に来るといやがるという話を聞きました。そこで、学校用と、通院用の鞄を違う物にして、圭くんに見せて(説明して)から出かけてはどうかと提案したところすぐ実践されて、圭くんは以前のように激しくいやがらなくなったそうです。


また、車が赤信号で停まると、やはり激しく文句を言うというそうです。「赤信号だよと説明してもだめなんです」ということでした。圭くんは音を聴くことはどちらかというと苦手、見ることが得意だというふうに、圭くんから教えてもらいながら係わりを進めて来た私は、校内で車椅子を進める時は青の丸カードをテーブルに置き、止まる時は赤のカードに変えてみました。大きな変化も感じないで時間が過ぎましたが、ある日保護者がこう伝えてくれました。「先生、信号で停まってもとても静かだったのでどうしたのかと振り向いたら、座席の上に座るようにして(いつもは寝転がっている)、フロントガラスの向こうをじーっと見ているんですよ。信号を見ているみたいに」

写真・新車の車椅子で卒業

そして、「学校で学ぶことでどんどん成長できたから、卒業したくないです。どうか留年させてください!」と。


もちろん圭くんは作ってもらった新車の車椅子で、得意そうに卒業していきました。大丈夫、圭くんはいつでもどこでも学べるということをこそ、学んだのですから・・・。




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