59 卒業したくない! 3 車椅子は自分で


心臓に病気があるという圭くんは、高等部に入学するまであまり大きな運動を伴う活動はしなかったと思います。中学部までは教育も訪問指導を受けていましたから、出かけるのは主に病院だったそうです。

そんな圭くんでしたが、成長に伴い病状も落ちついてきて自分から活発に動くことが増えました。移動のため仕方なく乗っていた嫌いな車椅子にも自分から乗って『行こう』という意思表示をすることが増えてきました。

そこで私は、いっそ車椅子を自分で動かせたらいいだろうと、考えました。圭くんがそこまで考えていたか確認のすべはないので、あくまでも私の考えです。圭くんを知る何人かの教員には「無駄、無駄」とも思われたようでしたが、私は圭くんと二人で挑戦しました。


学校には教室が並ぶ部分と、音楽室や理科室、調理室などという特別室が並ぶ部分がありますが、その特別室の廊下は、決まった時間以外あまり人通りがありません。そこに圭くんが乗った車椅子を押していきました。もちろんもう、車椅子に乗ることをいやがる圭くんではありません。廊下の端に行くとまず左の壁側に車椅子を停止します。そして、私は押すのをやめます。すると、圭くんは『動かないよ。仕方ないなぁ』というふうに左足をぶらぶらと伸ばし、壁を蹴ります。右斜めに動き出した車椅子を、私がそっと押して今度は右壁際に停めます。圭くんは窺うように私のいる後方に顔を向けたりしますが、また『仕方ないなぁ』と言いたそうに右足でぐいと壁を蹴ります。そうやってジグザグに廊下を進むのです。最初圭くんが足を出すまでとても時間がかかりました。まぐれのようにすぐ蹴る時もあれば、しばらく手に持った玩具を顔の前にかざして遊んでから思いついたように動くこともありました。でも、いつの間にか圭くんはこうやって車椅子が動くということを知ったようです。

廊下の端に車椅子を停め、私は前方に回りこっちですと手を振って呼ぶようにしてみましたが、あっという間にジグザグ進行してやってくるようになりました。


そこで今度は、車椅子を壁際に停めてすぐ圭くんの手を手すりに置き、私の手を添えてぐっと押すようにしてみました。左の壁の時は左手、右の壁の時は右手を。一度学ぶと圭くんは身につけるのが早いのです。足で動くなら手でも・・・とばかり、圭くんは手すりにつかまって車椅子を動かすようになりました。

と言うとすごく簡単なようですが、もちろん何ヶ月もかかってのことです。


写真・自分で借りた車いすを動かす

次に挑戦することは決まっています。車椅子の操作です。

圭くん自身の車椅子はハンドリム(自分でこぐための仕組み)がついていなかったので、学校にある同じサイズのハンドリム付きの車椅子を借りて、圭くんに乗ってもらいました。やっぱり圭くんは『これは僕のじゃないよ』と、乗り心地悪そうにもぞもぞしましたが、圭くんの手をハンドリムに乗せ、その圭くんの手に私が手を重ねて、そっと押すようにして動かしてみると、圭くんは理解しました。ただ、壁で練習したものですから(そのせいばかりかどうかは分かりませんが)、片手で動かしてみてはしばらく遊び、また別の手で、あるときは両手でと、気ままな運転手さんでした。


圭くんが自分で車椅子を動かす姿を見て感激した保護者は、卒業に間に合うように、圭くん用のハンドリム付きの新車を作ることにしました。ポーカーフェイスの圭くんですが、どことなく得意そうに見えたのは、私だけでしょうか。




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