58 卒業したくない! 2 靴を履きましょう


圭くんが好きな物を探しに校内の何カ所かを訪ねるようになったのと平行して、教室の外の廊下に大型遊具を置いて圭くんを抱いてその遊具で遊びましょうと誘うこともしました。圭くんは『いやだよ〜』と言うかのように、とてもすばやく廊下を背這いで動き教室に戻ってしまいました。その早さにはびっくり。しかも正確に教室まで一直線です。

《子ども(生徒)が嫌だということはしない》というのは、最低限の係わりのルールです。でも、もちろんごめんなさいと言いながら、嫌いな薬を飲んでもらうことだってあります。帰る時間になればスクールバスに乗ってもらわなければなりません。そのような時にどうやって子どもに理解してもらうかで教員は悩みます。

でも、圭くんに「教室の外へ出ようよ」と言うことは、また違うレベルのことでしょう。私の中でそれは圭くんの学び、生活の広がりに繋がることだというイメージはありましたが、圭くん自身に伝えるすべを持てず、いつも心苦しく思いながらの係わりでした。


でも、圭くんは強引な私を許してくれたのかもしれません。そんな気がします。教室へ戻る早さが変わってきました。教室のドアの所で止まり、少し遊んでから戻ってみたり、一直線ではなくカーブを描いて戻ってみたりするようになりました。


そして、驚いたことに下校時間になったら自分の鞄を引きずって背這いで玄関に向かったのです。毎日掃除しているとは言え、廊下には埃もありますから圭くんは埃も一緒に運んで行きます。でも、保護者はそんな圭くんを見て「すごい!」と喜んでくれたのです。「ホコリ(誇り)高き男」と、落ちまでつけて笑って・・・。


そうして、圭くんの活動範囲はグンと広がりました。車椅子に乗って移動することも以前のようにいやがらなくなりました。だって、進む所には新しい世界が開けるということを圭くんは学んだのですから・・・。


保護者は、そんな圭くんの姿を喜び、家族で出かけられるようになりました。出かけた先では、圭くんは車椅子に乗って移動します。お家の決まった部屋や、教室や、決まった場所しか落ちつかなかった圭くん、車椅子に乗るのが嫌いだった圭くんはもういません。楽しそうなお話をいくつも聞かせてもらいました。


写真・裸足で車いす

ところがある日、お母さんが「靴を履くのをいやがるんですよ。車椅子で移動する時はぶつかる危険もあるので靴を履かせたいのですが・・・」。そして最後ににっこり、「先生からも言ってやってください」。


う〜ん、困りました。どうしようかと考えあぐんでいた時に、クラスの女の子と圭くんと私、3人で中庭に向かい、外に出ることになりました。教室の外出口からそのまま外出です。女の子はSLB(支柱付き短下肢補装靴)を履いているので、そのまま出て、入る時に靴底をふきます。そのとき、ハッとしました。車椅子に乗った圭くんの手を取り、隣に立った女の子の大きな舗装靴をゆっくりさわってもらいました。

写真・SLB(支柱付き短下肢補装靴)

なんと、圭くんは瞬時に理解しました。私が「圭くんも靴を履こうね」と言いながら履かせた靴をいやがらず履いて外へ出たのです。

帰って来たら、一瞬の間もなく脱ぎ飛ばしましたが。




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