50 飛び入り


転任して肢体不自由教育課程の小学5年生のクラスに配属され、そのまま持ち上がって一緒に中学部に進学しました。10人の校内進学者と、近隣の市から進学して来た3人の生徒合わせて13人のクラスです。


朝のあいさつを済ませた後、私は小学部から進学したユウガ君の車椅子を押して体育館に向かいました。体育館にはトランポリンが3台備えられています。1台は大きな長方形のもので、これは組み立てるのに数人必要です。他に小さな円形のものが2台あって、こちらは一人で組み立てることが出来ます。私は、その円形のトランポリンを組み立て、車椅子で待っていたユウガ君と一緒にトランポリンに乗りました。

ユウガ君の身長は私と同じくらいですが、自分の体幹を支えることが出来ません。普段は車椅子の背を斜めに倒して乗るか、布団に横たわるかして過ごしています。

ユウガ君はもちろん笑ったり泣いたりしますが、その表情の変化はとてもかすかで分かりにくいのです。そして体の動きもやっぱりかすかです。それでも、毎日一緒に生活していれば、彼の好きなこと、苦手なことなども分かってきます。


その日私は、彼とのやりとりをビデオに撮影しようと、カメラをセッティングしました。彼のお母さんはとても太っ腹の豪快な方で、最初に撮影の許可と文章の公開をお願いしたとき、お母さんは「もちろんいいですよ。いっぱい撮って、実名でいいですからどんどん発表してください」と言われたのです。

分かりにくいけれど、ユウガ君は自分の気持ちを小さな動きで表現していることをお母さんにも見てもらいたいと考えて、この日ビデオをセッティングしていたのでした。


トランポリンに座り、ユウガ君を後ろから支えるように抱きかかえ(その日の体調に合わせて姿勢は変えます)、まずゆっくりゆらします。「トランポリンに乗りました。揺らします」と言葉をかけてから。そして10まで数えて揺らすのを止めました。それから、ユウガ君に「もう一度揺らしたいなら、鈴を鳴らしてね」と話しました。

ユウガ君の右手には綿の入ったリングが握られています。見ることも苦手だというユウガ君に見えやすいようにと、太い縞模様の布で作ったリングです。柔らかいのでユウガ君にも握っていることができます。中に鈴が入っているので動かすと鳴ります。ユウガ君が腕を動かしました。鈴が鳴ります。「分かった、もう一回ね」と返事をして、私はトランポリンを揺らします。

2、3回そんなやりとりをしたところでしょうか、「ユウちゃん!」という大きな声が響きました。ユウガ君のお母さんが通りかかったのです。そして、ちょうど揺らし始めたトランポリンに両手をついて、もっと大きく揺れるように弾みをつけ始めました。

写真・トランポリン

10回で揺らすのを止めた時は、怪訝な顔をされましたが、私がユウガ君にどうする?と聞くのを見てうなずきます。そしてユウガ君の腕が動くのを見てまた感激、大きな声援をしながらバンバン揺らしてくれました。

その後数回飛んでおしまいにしましたが、最後はおまけの20回揺らしました。


ユウガ君の様々な活動場面を撮影したビデオは、中学卒業時2枚のDVDにまとめて差し上げました。お母さんは後で「嬉しくて、親戚にも回して見てもらったの」と話していました。そこにはお母さんの飛び入りビデオも入っています。ちょっと逆光でしたが・・・。





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