5 かいだんこわい


高等部に入学したばかりの私のクラスの女の子は、歩行時の足元が不安定で、段差は苦手でした。登りはゆっくり行きますが、下りは手すりにつかまったりして怖々歩いていました。


入学式の後、親睦をかねて高等部全員で近所の公園まで遠足に行くのがこの学校の習慣なのだそうです。

この高等部は十数名ほどの1学年が1クラスになっているので、3学年で3クラスということになります。その3学年の生徒全員を歩く力という視点でグループに分け、教員もそれぞれのグループに配属されて出発です。


私は初めての学校で緊張していました。10年ほど肢体不自由教育課程のクラスで勤務し、久しぶりに知的障害教育課程の学校に転勤しました。


私は一番ゆっくり歩く生徒達のグループに付いて、最後尾をゆっくり歩いて行きました。歩行困難というタイプの生徒もいますが、早く歩くのが苦手という生徒もいます。また楽しいのは、歩くのは早いけれど、自分のペースで立ち止まるとしばらく動かないという生徒もいるのです。色々な生徒とドキドキしながら歩いていました。


公園に着くと、そこではクラスごとに集合し、水分を摂ったり簡単にレクリエーションをしたりして休憩します。


でもそれはあっという間で、今度は帰り道です。一つ前のグループだった私のクラスの女の子が、不揃いな階段の前で立ち往生していました。手すりはありません。
「足が痛いから歩けない」
と言っています。

でも私には《怖い》という声が聞こえたような気がしました。


私は片手を彼女の前に差し出し、杖の代わりになりました。彼女は私の手につかまって階段を下り始めました。彼女のグループの人達はずいぶん先に行っています。

このとき、支えるというのはとても難しいことだと知りました。彼女は自分で足を出したいのです。でも怖い。彼女が自分でできるという気持ちで足を出さなければ、いつも誰かが必要になってしまうでしょう。

助けるのではなく支えるということ、自分の仕事の質を強く感じていました。 私の、差し出しただけの手につかまりながら階段を下りきった彼女は、 「待ってよ〜」と叫んで、グループの仲間の方に駆け出して行きました。


その後も何回か階段では彼女の杖になって歩きました。だんだん歩きながらおしゃべりをするようになり、いつか『階段の杖』は必要がなくなりました。


卒業後の彼女は電車を乗り換えて進路先に通うようになりましたが、保護者の方の話によると、駅の階段もものともせず、ゆっくり楽しんで毎日通っているとのことです。





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