47 先生の姿


蔵書を整理していると、思わぬところで時間が過ぎてしまいます。小説のたぐいはずっと昔、子どもたちが通っている中学校の図書室に運ばせてもらいました。仕事でいつの間にか増えていった専門書のたぐいは若い後輩の本箱に移動させてもらいました。

それでもどこか手放せない本は残り、なぜか増殖していくものです。


『あるいてみたら・・・』を、パラパラめくり始めたら時間が経ってしまいました。子どもたちがまだ幼稚園や小中学生の頃に、野山を歩いてはB4の新聞にまとめていたものです。いつの間にか50枚になり、100枚になって、綴じた冊子が上下2冊になりました。

その中に息子の小学生の頃の記事がありました。久しく忘れていましたが、とても懐かしいできごとでした。

写真・冊子歩いてみたら

それは息子が小学4年生の運動会のことでした。午前中の演技が終わって、児童は一斉にグラウンドの端にシートを広げる家族のもとに走っていきます。みんなでお弁当を食べる、楽しいお昼です。私も、シートにお弁当を広げて息子が来るのを待っていました。隣には幼稚園児の娘もお腹を空かせて待っています。ところが息子はこちらには向かわず、まっすぐ入場門の方に駆けて行きます。ふと見ると、入場門の辺りに児童が集まっているようです。どうやら4年生です。

グラウンドにアナウンスが入りました。

昨年息子のクラスの担任だった先生が今来校されたので、午前中に行われた学年演技を見てもらうため、これから再び演技を行うというアナウンスでした。

校庭にサンバのリズムが流れ、息子の学年は一斉にリズムに乗って前進し始めました。音楽に乗って弾むようにグラウンドに広がっていきます。本番よりもっと弾んで、もっと自由に、もっと誇らしく。

たった一人の人に見てもらえることが、彼らにどんな力を与えたのか。その全身から溢れる自信、喜び、いったいなぜなのでしょう。


息子の学年は3クラスあります。昨年息子のクラスの担任だった先生は、他の2クラスの児童にとっては、『隣のクラスの先生』でしかなかったでしょう。それでも学年児童全員が活き活きと踊り出しました。午前中の本番よりむしろ胸を張って、一人ひとりが輝いて見えます。


写真・運動会

今、4年生全員の演技の美しさを見ると、その先生が一年間児童ひとり一人の隣に在り続けたことを教えられます。

当時の私の手書きの文には、

「森の中でフタリシズカに出会うと、自分がひとり一人の生徒にとって静かに隣り合っているか・・・一人の先生の背中が見えてくる」とあります。当時書いていた『花に会う』という短文シリーズの一つでしたから、フタリシズカのかわいく地味な2本の穂からイメージしたのでしょう。

あれから30年も経ち、未熟を乗り越えられたという自覚も無いまま仕事から離れてしまいました。

子どもたちが『先生』と心から呼べる先達の背中を、懐かしくほろ苦く思い出します。





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