43 聞こえる?


友人からメールが届きました。テレビに出演したので見てねというお知らせでした。息子が幼稚園のときの、今でいうママ友ですか、その友人の夫君からのメールです。彼はNPO法人の活動で、子どもたちに科学の楽しさを伝える実験活動をしています。その活動の紹介の映像でした。生き生きとした友人の活動の様子が伝わってきます。

昨年秋、長野の我が家を訪ねてくれたので、実に30年近くの空白を越えて再会。年賀状などで近況は知らせ合っていましたが、最後に会ったのは30年近く前、東京の近代美術館でバッタリだったと記憶しています。

写真・指ピアノ

その友人がテレビ画面の中で、子どもたちと作ったという『指ピアノ』(写真:友人提供)を持って話しています。1枚の木の板にピアノ線を曲げて付けただけの小さな物なのに、テーブルの上で弾くと響きます。音階になっています。手に持って弾いても音は聞こえません。テーブルの上に戻して弾くとまた音が聞こえます。魔法ではありません、音の科学なんですね。

写真・指ピアノ

活動の中で子どもたちに見せたスケッチブックには、タイトルや、音って何だろうという疑問、どんな物体が音を響かせるのかなどということが書いてあり、めくるたびに現れます。響かせてくれる物が無ければ音は伝わらないということ、分かっているようでなかなか難しいことなのです。


テレビに映る彼の話を聞きながら、難聴と診断された生徒を担任していた頃のことを思い出しました。ろう学校ではなく、肢体不自由教育課程の高等部でした。肢体不自由教育課程には、四肢が不自由というような状態だけではなく、見えにくかったり、聞き取りにくかったりする困難を合わせ持っている生徒も多いのです。

私は難聴の生徒を担任した3年間、生徒とは大きなゆっくりした声で会話したり、がやがやしたところでは筆談をしたりして様々な学習活動をしました。

わずかずつですが手話を勉強したり、補聴器について調べたりもしました。それでもいつも、ちゃんと伝えられているだろうか、そして彼の言いたいことをちゃんと受け取れているだろうかということが不安でした。


横須賀市の東京湾沿いにあった国立特殊教育総合研究所(現在は独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)の重複障害教育研究部や、聴覚障害教育研究部にお邪魔して、色々な知識やアイディアをいただいていました。

そんなあるとき、研究所の中にある『無響室』に入らせてもらいました。明かりも消して。光も無く、音も聞こえない空間は強烈でした。一緒に入ったはずの人がいるのかどうかさえ分からなく、立っているのも困難な気持ち悪さでした。


音を響かせる物として『空気、木、水、金属』を挙げて説明していた友人に、その経験を伝え、「空気はあったのに、どうして聞こえなかったのでしょう」とメールを送ったら、「四方八方を吸音材で囲った密封した部屋です」と、すぐ返事が来ました。忘れていた無響室という言葉も教えてもらいました。そういえば、扉もとても分厚かったのを覚えています。


あのとき私は、自分の日常生活は、ほぼ見ること聞くことだけに頼って空間を認知しているのだということを思い知った感じでした。触覚を感じるべき私の皮膚は無能に近く、人が発するはずの臭気もキャッチすることができない鼻なのでした。





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