41 抱きしめる 2


幼い子がママにぎゅーっと抱きしめられるのも、よたよた歩き始めた子が迷惑そうな猫をぎゅーっと抱きしめるのも、見ている方はとても微笑ましく、幸せな気分になります。後者の猫ちゃんの方はちょっぴりハラハラも味わえますが・・・。

私も、抱きしめたり、抱きしめられたりを繰り返して生きてきたのだと思いますが、名前も知らない人を抱きしめるという経験はたぶん2回だけだったと思います。1回目のことは前回書きました。今回は2度目の『抱きしめる』を思い出してみます。


『NRC(三浦半島自然保護の会)』は、私が生まれた頃から続いているという、日本でも伝統のある会ですが、継続して月に1回の自然観察会を実施してきたことは特筆すべきことだと思います。創始者のコンサベーショニスト柴田敏隆さんは数年前に亡くなられてしまいましたが、若い人が後を引き継いで現在も活動を続けています。

写真・キャンプ報告集

息子も中学生の頃は、柴田さんと一緒に観察会の下見などに度々行っていました。年に1回JNTC(ジュニア・ナチャラリスト・トレーニング・キャンプ)を1泊2日で計画し、楽しく実施したのも懐かしい思い出です。

5年続けましたっけ。柴田さんがユーモアたっぷりに、「おい、カアちゃん行ってこようぜ」「カアちゃんと出かけてくるから、よろしく」などと、私をカアちゃん呼ばわりされた笑顔も、今となっては懐かしいものです。

(柴田さんは、私が編集した5回のキャンプの記録をまとめて出版したいとおっしゃっていましたが、実現しないうちに亡くなられてしまいました)。

さて、思い出せば限りなく様々なことが思い浮かびますが、あれは三浦半島の真ん中辺りの森だったと思います。何故か道無き道を分け入って進むという、NRCの観察会では珍しいコースを歩いていました。参加者は20人に満たない少ない会でした。柴田さんを始めとする頼もしいリーダーの青年たちと、中学生くらいのジュニアリーダーが何人も参加しているので、フリーの参加者はとても少ない日でした。

木の枝を払い、足元のずるずるする傾斜のある道を進んでしばらく経ったときでした。「ワァ〜〜〜」と言う大きな声が前方で聞こえました。

急いで声のする方へ行くと、「○○××**〜〜」なんだか、言葉にならない大きな声を出して薮の下に年配の婦人が座り込んでいます。先頭にいた柴田さんも駆け寄っています。婦人の近くには家族の男性が立って色々言葉をかけていますが、自分の大きな声にびっくりして腰が抜けたようになっている婦人の耳には届かないようです。

私は彼女の後ろにぴたっとくっついて座り込み、しっかり抱きしめました。そして、「すごい道だったね」「ちゃんと歩いてきたね、すごいね」「みんないるから大丈夫」というようなことをゆっくり、小さな声でそっと話しかけました。

ブルブル震えていた婦人の背中からふうっと力が抜けたのは、何分くらい経ってからだったでしょう。もう大丈夫です。


その日解散してから柴田さんが言いました。「カァちゃんがいてくれて良かった。僕にはできないから・・・」。

そうですね、男性の柴田さんが抱きしめたら、ちょっぴりセンセーショナルな話題になっていたかも知れません?いくら、婦人が今で言う高齢者の仲間であっても。



 コンサベーショニスト:日本で柴田敏隆氏が初めて名乗る。自然をその摂理のもとに使いながら、自然を守ろうとする専門的な働きをする人。




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