38 「こわい」は同じ


善光寺さんでは色々な人に出会うことを書きました。もう、ずいぶん前のことですが一人の女の子に出会ったのも善光寺さんでした。

その時、私は一番小さな孫と山門に登ろうとしていました。善光寺さんの山門(三門とも書く)は、20メートルもの高さのある楼門ですが、楼上には文殊菩薩騎獅像と四天王立像が安置されていて、拝観することができます。もちろん古い建物なので、階段が狭くてとても急です。幼稚園児の孫はその急な階段が楽しくて登りたいのです。アスレチックと勘違いしているかもしれません。


その日私たちがチケットを持って階段の下まで行ったら、思ったより人が沢山待っていました。階段は狭いので、上り下りを一緒にできません。係の人がいて、交代で登ったり、下りたりしています。間をあけて下りて来る人がいます。仰ぎ見ると、階段の上の踊り場にいる人が、端の方で手を振って『どうぞ、どうぞお先に』というようなしぐさをしています。狭いので、上半身は見えませんが。下りる人が沢山いるのだろうと思って待っていましたが、しばらく誰も下りてきません。先頭にいて、上に向かって「はやくおいで」と言っていた女性が、係の人に何か言いました。「先にどうぞ」と言ったようです。下で待っていた人が登り始めました。

私たちの番になって、孫はどんどん登って行きます。怖いもの知らずです。私は彼の後から着いていきました。まだ小さい孫の足は高い段差に届くのがやっとという状態ですから、見ていると危なっかしいのです。でも、本人は自分の力で納得できるまでやってみたいのです。体を左右に揺らしながらもぐんぐん登って行きます。だから、私はよけいなことは言わないようにしたいと思って着いていきます。「手すりにつかまってね」と言った後は、「えらいねぇ」「すごいねぇ」と声をかけながら後ろから行きました。

下で待っていたのは私たちが最後でした。

孫がぴょんとはねるように登り切り、次の階段に向かうのを見ながら「ゆっくり行くのよ。つかまってね」と声をかけて、私も登り切った瞬間でした。いきなり目の前に顔が現れ肩をポンとたたかれました。何か言ったようですが、発音がはっきりせず聞き取れませんでした。「こわい」とだけ聞こえたような気がしました。私の肩を叩いたのは高校生くらいの女性です。女の子と言ってもいいくらい幼い感じの表情が真剣です。

隣から男性が「すみません」と謝ります。「あまり人に話しかけることはないのに・・・」と、恐縮しています。「ここで止まっちゃって、ずっと動けなくなってしまったんです」と話してくれました。

写真・善光寺さん山門の階段

私は「怖いよね、急だからね。私も怖かったよ」と女性に話し、隣にいる父親らしい男性には「いいんですよ。気になさらないで」と答えました。そして、「ここまで来たんだね。すてきだね」と、もう一度女性に話してから、急いで孫を追いかけました。

この二人が踊り場で往生していたので、人が詰まっていたようです。先に下りて下で呼んでいたのが母親のようでした。


孫はもう楼上にあがって一回りしたので、今上った階段を下りようという勢いです。「まだ遠くを見てからね」と話して、ふと下を見ると、女の子たちはもういませんでした。どうやら下りられたようです。

孫は『僕はもう知ってるよ』とばかりに、こっちこっちと私の手を引きます。すぐ下の六地蔵の広場から仲店通り、長野市の町並みの向こうには菅平の山がすっきりとした裾を引いて美しく見えていました。





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