37 どこから来たの?


友人が来たので、善光寺さんを案内しました。前にも来たことがあるので、散歩に出かけたというところでしょうか。我が家から行くと、本堂の裏側から境内に入ります。本堂や、かつての回向柱を見て、山門をくぐり、仲店を通り、仁王門をくぐって車道に出ます。ひととおり眺めて歩いたので、今度は同じ道を戻ることにしました。

仲店の賑やかな通りを過ぎて、『牛に引かれて善光寺参り』の牛の置物がある休憩所まで来ました。前には大きな山門がそびえ、右にはこれまた大きな六地蔵さんが鎮座され、左には大賀ハスの茂る池もあります。いつも賑やかな広場です。

私たちが休憩所の辺りをのんびり歩いているとき、背の高い金髪の女性がやはりゆっくりと散策していました。あちらこちらを見ていると、まっすぐ歩けないのです。きれいな人だなぁと思いながら見ていました。


写真・善光寺さんの世界地図

さて、休憩所の壁には2枚の地図が掲げてあります。日本地図と、世界地図です。大まかに県境、国境を示しただけの地図です。『あなたはどちらから来られましたか?』と書いてあります。そこにピンが置いてあり、自分の県や国の位置を示せるようになっているのです。

友人は初めて気がついたというので、私たちは地図の前に立ち止まりました。私は自分が行ったことのある、旧ロシアの小さな国にもピンが指してあったことを告げ、友人が「それはどこ?」と聞くので、指差して教えてあげました。日本人にはあまりなじみのない国らしく、ピンが指してあることはほとんどありません。友人も「そこかぁ〜」とようやくうなずきました。

その時です、広場にいたきれいな外国の女性がスッと近寄ってきて、ピンを刺したのです。それは私が指差した国の近くでした。
「ウクライナ」。
私はブロークンな英語で「私は貴方の国のキエフバレエ団が好きです」と話しました。女性はぱっと笑顔になり、「イエス」と言った後、「私たちの国のバレエはすてきですが、ボルシチもとってもおいしいですよ」という意味(たぶん)のことを言いました。

食いしん坊の友人は「ボルシチ!」と叫び、女性はうんうんとうなずいています。

そして、「まぁ、遠い所からよくいらっしゃいました」「いえいえ、日本はすてきです」みたいな、お互いチンプンカンプンだけど、多分そんなことだよねというような言葉を交わしました。


それから私たちは仲良くなり・・・と続けば、お話ができそうですが、現実はそうはならず、互いに笑顔でうなずきあいながら分かれました。言葉の壁は厚いのです。

それでも、何か一つ突破口が見つかればさっきまで視線もかわさなかった人が、笑顔で片言の会話ができるのです。

なにげなくこっちを見ていた女性が「あ、私の国の近くを指差した」と、近寄ってくれたとしたら、偶然とは言えすてきな出会いでした。そして『ボルシチ』という言葉は、私たち全員のイメージが一致したキーワードになったのです。

臆せず、心を寄り添わせることができたら言葉の壁も乗り越えられるかも知れない・・・などと思った一時でした。





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