33 教室は公園


13人の高等部の生徒たちと3年間過ごしました。3年目になるととても分かり合えたような気がします。でも、人間の奥行きはなかなかに深いもの、おいそれと分かり合えるものではありません。


私たちのクラスは、近所の図書館や公園を、第2第3の教室としていました。高等部3年生になって、さらにその機会を増やしました。

公園には校門を出てグランドを一回りして行きます。自分たちの学校のグランドを植木越しに見ながら歩きます。学校近くのその公園は広場と砂場と、わずかな遊具があるだけですが、端の方には藤棚の下にベンチがあり、ひと休みできます。

公園では、体を自由に大きく動かすことができます。公共の場ですから、他の人がいることもたくさんあります。生徒たちは他の人とはあまり話そうとはしません。一定の距離を保って動くことが多いのです。クラスの仲間は互いの関係、教員との関係を確かめながら、それぞれ目指すものを決めて動き出します。鬼ごっこをしたり、ダンスをしたり、石垣の間を調べたり、花を観察したり、そしてベンチに横になってしまう生徒もいます。

その日は砂場に先客がいました。ママと一緒に遊びに来た近所の子どもたちが数人でおままごとをしています。私たちは、先客の邪魔にならないようにベンチの方に行き、自由時間にしました。

いつものように、先客のいる砂場には近寄らず、13人の生徒が動き出しました。

ところがふと見ると、ミキさんが砂場に向かっているのです。ゆっくり砂場の周りを回っています。しかも、何か話し出しました。
「えーっとね」
ママさんたちはおしゃべりし合っていますが、子どもたちはミキさんの方に注意を向けたようです。
「なにしてる?」
というミキさんの問いかけに、「お砂遊び」「おままごと」と元気な声が返ってきました。
ミキさんはうんうんとうなずくと、満足したようにふらりと砂場を離れて歩き出しました。

なにげなない公園の風景、なにげない会話に思えますが、私にとってはびっくりするひとコマでした。


ミキさんは自閉症という診断名があります。それもかなり重度です。高等部に入学した頃、つまり私がミキさんと出会った頃ですが、ミキさんは突然服を脱ぎ始めたり、授業中の他の教室に走り込むこともあったり、周りの人との関係を作ることに苦労していました。言葉は話せても人と会話することは難しい様子でした。しかし一見、おかしな行動に見えても、ミキさんにとっては意味のある行動なのです。

私はおかしな行動に見えても彼女の行動に付き添い、彼女に向かって発する言葉はしっかり伝わるように選び、文字や絵で表した方が伝わりやすいことは文字や絵も併用して伝えるようにしました。そして話したことは決して裏切らないということを続けました。どうしても予定を変えなければならない時は、そのことをもう一度ていねいに説明しました。

少しずつ行動が落ちついてきた頃、家族と会話のようなことができるようになったと母親から聞きました。「みえこせ〜んせ」と、話しかけてくれるようになったのも同じ頃だと思います。

そのミキさんが、初めて会った人に自分から話しかけたのです。それもなんだか楽しそうに、とても自然に。

社会とふれあう公園教室、いいなぁと思った瞬間でした。





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