32 子どもはどこから学ぶか


善光寺さんの境内はまるで宝箱、もう一つかわいい話を拾いました。

もうずいぶん前のことなので、季節がいつだったか忘れてしまいました。でも、それほど寒い頃ではなかったと思います。

表参道を上がってくると、仁王門があり、そこをくぐり抜けると道の両側に土産物などの商店が並ぶ仲店通りがあります。緩やかではありますが、ずっと上り坂なので、仲店でのどを潤している観光客がたくさんいます。

仲店を通り過ぎると、六地蔵の広場に入るのですが、その入り口には駒返り橋という石の橋があります。源頼朝にゆかりのある橋だそうですから12世紀にはすでに石橋として存在していたのですが、若い人ならひとまたぎできそうな幅しかないうえに、参道の大きな石畳と同じ石でできているので、橋とは気づかずに渡っている人も多いと思います。水の流れは細く、石の囲いの底を静かに流れています。

写真・善光寺駒返り橋

その橋の脇に小さな女の子が立っていました。3歳かなぁ、4歳にはなっていないのじゃないかなと思いながら私は少しずつ近づいて行きました。女の子はなんだか落ちつかない様子で顔をあちこちに向けています。

迷子だろうか・・・と、私は少しドキドキしました。

さらに近寄って行くと、女の子は私の方に顔を向けました。そして「あっ」と小さな声で言い、ぱっと笑顔になりました。私は一瞬自分に向けられた視線かと思ったのですが、もちろんそんなことはなく、女の子は私の後ろから急ぎ足で来る女性を見つけたのです。

その女性ははぁはぁと息を切らしながら近づいてきます。


私は内心『良かった、お母さんに見つけてもらって』と思っていました。

女の子は母親らしき女性が近づくにつれて姿勢が良くなりました。何となく落ちつかなそうにウロウロしていた姿はどこにもうかがえません。


安心しながらも野次馬根性の私は、お母さんがなんて言うのだろうと思いながら、彼女たちの様子に耳をそばだてていました。女性は私を追い越して女の子のところに着きました。

さぁ親子の対面、なんて思っていた私に聞こえてきたのは、
「どこ行ってたのよ」という大きな声。

やっぱり・・・普通はそう言います。でも、その声は女の子の声でした。胸を反らして女の子はさらに言いました。
「だめじゃない、みんな心配するよ!」。


私は吹き出しそうになりながら、彼女たちの横を通りました。母親らしい女性はニコニコしながら女の子に「ごめんごめん」と言っています。気がつけば、お父さんらしい男性と、おばぁちゃんらしい女性も現れています。みんな苦笑していますが、声を荒げる人はいません。


なんだか、微笑ましい一幕でした。

帰り道を急ぎながら、女の子はどこであの言い方を学んだのだろうと思いました。もちろんあの楽しそうな家族の中で学んだのでしょう、きっと。みんなの注目を一身に集めて大切にされて来た女の子が、日々包まれてきた『言葉』なのではないでしょうか。





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