28 人と人の関係〜二人の雪さん〜


雪さんは、学校にいる時間はお布団に横になって過ごすことがほとんどでした。給食を食べる時も横になったまま食べます。信頼関係がある方がよいだろうと、最初は担任3年目の男性教員と食べることにしました。私はクラスの他の女子生徒と食べることになりました。

給食は教室までワゴンに乗せて生徒と教員の分を運んできます。この学校では知的障害教育課程の高等部が併設されていて、その生徒たちが運んで来てくれるという約束ができていました。決まったクラスの生徒が運んで来てくれるので、お互いに話をしたりして1年間の間には仲良しになる人もありました。

私と一緒に食べることになった女子生徒は、慣れない人とだとなかなか口を開けないと聞きました。私の前の担任は彼女が食べ始めるのに1学期間かかったと伝えてくれました。それは長いのですが、「だいたい1ヶ月は口を開けないね」とお母さんも諦め口調で話してくださいました。

何故か、私とはウマがあったのか、1日目からすっと食べ始めることができたので、そのまま1学期間は続けることにしました。


2学期に向けて私たち担任は話し合い、交代してみることにしました。

そして2学期の給食1日目、雪さんは横になって私と一緒に食べているのですが、視線の先に別の女子生徒と食べている男性教員が見えています。何となく不満そうに、食べる口の動きもゆっくりです。一方私と代わった男性教員も苦戦しています。かの女子生徒が頑として口を開かず、食べようとしません。そしてやはり私の方をじっと睨むように見ています。

数日この状態が続きました。私と男性教員は、もう一度話し合いました。食べるという、生活に欠かせない大切な行為を落ちついて楽しくできるように、そのために私たちがすることを決めようと。私たちはもう一度交代し、1学期と同じ組み合わせで食べることにしました。学校の事情などで違う人と食べることもありますが、基本の組み合わせは卒業まで同じにしました。

というわけで、私が雪さんと食事を一緒にしたのは数日だけでした。


雪さんが卒業して1年ほど経った時、入院したと聞き、お見舞いに行きました。仕事が終わって出かけ、病室を覗くと夕食の時間でした。看護師さんが雪さんに口を開けさせようと一生懸命話しかけていました。そして、私の顔を見ると、「雪さん、先生が来てくれたよ。一緒にご飯食べる?」と言うのです。雪さんは病院ではなかなか食事をとらず、お母さんが来て食べさせてくれる時は良いけれど、看護師さんたちは困っていたそうです。

私も実はあまり一緒に食べたことがないのですが・・・と、心の中で呟きながらベッドサイドに座り、「雪!ご飯食べようね」と、話しかけました。スプーンで少しずつ・・・。雪さんは口を開け、ゆっくり食べ始めました。


教育についての話題の一つに食事や日常の生活指導をローテーションして係わるか否かということがあります。私はどちらかだけが正しいということはないと思っています。子どもが信頼を持ってその場にいることができなければ、教育的な効果はないと思えます。ただ、同じ人とだけ関係を作ってしまうと、その子の世界は広がらないという論に対して自信を持って違うと言えるのはこの雪さんとのことがあったからです。

信頼関係とはただ隣にいて、口にスプーンを運んでもらったかどうかで築かれるものではないということを、雪さんから教えてもらったのです。





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