27 トイレに座る時〜二人の雪さん〜


雪さんが自分の気持ちを表すために体(腕)を動かして表現する人だと分かりました。それでも雪さんの病気は徐々に進行しているのです。欠席も多くなりましたが、登校した時は出来るだけ楽しく有意義に過ごせる時間を作りたいと、私は意気込んでいました。


雪さんの病気は尿に体の塩分が溶けて出てしまうという症状がありましたから、排泄時はていねいな手当が必要でした。教室に車椅子タイプのポータブルトイレを置き、時間を見計らって、そのトイレに座らせてあげていました。

高校3年の雪さんは背が高く、体をしっかり支えてあげると立つ姿勢をとることが出来ました。足を突っ張って立つので、歩くことは出来ませんでしたが、立つと私より背が高いのです。

クラスのもう一人の担任は男性でした。その男性の教員と二人で雪さんを抱きかかえて、ポータブルの前に立たせてあげました。それから、男性が支えている間に大きなバスタオルでくるみ、トイレの準備をしました。バスタオルで囲ったまま雪さんを座らせてあげてから、男性教員は教室の外に出て、私が声をかけるまで待っていました。

用が澄んだ後、また二人で雪さんを横にさせてあげて、その後、私が電気ポットで沸かしてあるお湯を使って塩分をふき取るようにします。


私が担任になったのは、雪さんが高等部3年の時でしたから、それまでの学校での歴史があり、はじめは覚えて実施することで精一杯でした。時間を見計らって座らせてあげるのですが、生理現象ですから、排尿のタイミングと合わないこともあります。

雪さんとおもちゃを使う学習を繰り返すうちに、私は雪さんと少しずつおしゃべりができるような気がしてきていました。そこで、トイレの時間かなと思うとき雪さんに「トイレに座りますか?」と聞いてみることにしました。

もし、雪さんが自分の意思を伝えてくれれば、排尿したくない時に座らなくてもすむと思ったのです。17歳の雪さんにとって、男性の教員の前でトイレの準備をするのはあまり嬉しいことではないと思います。何回か私一人で雪さんを立たせてあげて、それから排泄の準備をしたこともありますが、私より大きい雪さんを片手で支えて準備をするのはなかなかに大変でした。私は力持ちだったのでなんとかできましたが、転倒の危険と隣り合わせです。現実的ではないので、やはり担任二人で協力した方がいいと判断しました。

だからこそ、本当に必要な時だけできたらいいだろうと考えたのです。


小さな声で雪さんに「トイレに座りますか?」と聞きました。

すると雪さんは「ファ〜」と、声を出しました。聞いた私がびっくりするくらいの声でした。そこで、男性の教員を呼んで、トイレの準備をしました。


男性の教員は、雪さんが高等部に入学した時から3年間担任をしている教員です。雪さんとは私より長いつきあいで、雪さんも信頼しているでしょう。それでも、出たくもない時間に、排泄のための準備をするのは避けたいと考えた私に、雪さんは大きな声で答えてくれたのです。

これまで、時間を見計らって座っていたトイレでしたが、雪さんが返事をしない時には座らないことにしました。そして、「ファ〜」と大きな声で答えてくれる時は、危険が無いように、恥ずかしくないようにバスタオルで包んで準備をして座ります。生きとし生けるものにとって、とても大切な排泄のために。





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