26 どっちかな?〜二人の雪さん〜


養護学校に正式に勤務するようになり、高等部3年の担任になりました。そこで出会った雪さんは学校生活のほとんどを横になって過ごしていました。登下校など車椅子に座って移動しましたが、座った状態で長く過ごすことは難しいのでした。

雪さんは何か伝えようとして声を出していたのですが、その頃の私には意味のある音には聞こえませんでした。雪さんは中学部の頃はいくつかの言葉を話していたそうです。また、もっと小さい時は歩いたり、言葉を話したりしていたと、お母さんが話してくださいました。「時計の勉強もしていたのよ」と、学習している雪さんの写真を見せてくださいました。

雪さんの症状はどんどん進行していったようです。しかし、病名は分からないとのことでした。尿と一緒に体の中の塩分が出てしまうということが現象として起こっていると聞きました。私たちは医者ではないので、病気に関してはドクターに頼むだけですが、雪さんとの間に分かりあえる時間、空間を作ることは教師としての仕事です。そして、雪さんが自分から何かをしたいと発信することは、病気の進行をも遅らせられるのではないかと、私は密かに、密かに思っていたのです。


写真・楽器をたたく

とは言うものの、横になって過ごす雪さんと何をしたらいいのか・・・分からないまま日は過ぎました。前年度までの担任が雪さんの好きな物として使っていた、音の出るおもちゃを教材として続けて使っていました。音の出るおもちゃをならしながら、雪さんの好きな歌を歌いました。雪さんは好きな歌があり、支えてあげればおもちゃに手を添えて一緒に振ったりすることもありました。

始める前に、どの楽器を使うのかを雪さんに伝えようと思い、目の粗い四角の籠に入れて、雪さんの前に出しました。木のお盆に入れてみたのですが、横になっている雪さんに見えるように斜めにすると、落ちてしまいそうになります。雪さんの顔に落ちたら危険です。それで、目の粗い籠を使いました。(今なら、透明のプラスチックの箱などもありますから、もっと良く見えるでしょう。当時の私はずいぶん工夫したつもりでした。)

籠に入れたおもちゃを雪さんから見える位置に差し出し、「これで歌いましょう」と言ってから、そのおもちゃを使って一緒に歌を歌いました。

おもちゃを1個だけ見えるようにする時は、私が持っていても良かったのですが、いつも同じ籠に入れて見ることによって、籠の中を見ればわかるという約束のようなことが出来るといいなと思いました。


時間が経過するに従って「これで歌いますか?」と聞くようになり、1ヶ月ほど経過した頃には、おもちゃを出すと雪さんの右手がわずかに動くような気がしました。

そこで籠の中に二つのおもちゃを入れ、「どちらで遊びますか?」と聞いてみました。

雪さんは、右腕を大きく自分の頭の方まで伸ばし、それからぐっと前にふり、籠の中のおもちゃまで伸ばして、人差し指でおもちゃに触れました。

写真・籠の中のおもちゃまで伸ばして、人差し指でおもちゃに触れる

その動きがとてもはっきりしていて、びっくりしました。

もちろん、雪さんが決めた方のおもちゃで、一緒に歌を歌いました。1曲終わると、また籠に入れて聞きます。雪さんは同じように大きく腕を動かして、自分の選んだおもちゃを人差し指で指しました。

私は初めて雪さんとおしゃべりできたような気がしました。





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