25 好き嫌い


食べることは、人生の楽しみと言いますが、嫌いな食べ物が全く無いという人もまた少ないのではないでしょうか?マリさんは果物が苦手です。彼女はダウン症、口の周りの筋や、舌の機能に特有の不自由がありますが、いろいろなものを噛んで食べることができます。ただ、果物は苦手と言っていました。お母さんに聞いたら、お母さんも苦手なのだそうです。味覚の好みの問題なのでしょう。

お母さんは「私も果物はあまり好きじゃないんです。だから無理に食べなくてもいいです。必要な栄養分は野菜とか他の物でとるようにします。でも中学生のときに、苦手だった『きんぴら』を調理実習で作ったらおいしかったと言って食べられるようになったことがありました。食べられる物が自然に増えていけばいいですよね」と言われました。

学校の給食では毎日必ず果物が出ます。とくに柑橘類が多いようです。マリちゃんは果物の中でも柑橘類が苦手です。

1年生になって給食が始まり、しばらくしたころ、マリさんがオレンジを残しているのを見つけた他のクラスの教員が、「ビタミンがあるのよ、食べなさい」と言葉をかけていました。私は離れたところでクラスの別の生徒と食べていました。

その日マリさんは最後まで食べませんでした。しかも、最後は「ちょっとさわってみたら」と言われて首を振り、さわるのもいやと言ったことになってしまったようです。

その日は何だかそんな流れになってしまったようです。でも、マリさんもきっと教員がマリさんに気持ちを寄せて一生懸命話してくれたことを受け取っていて、心に引っかかっていたのでしょう。


次の日のことです。また、メニューには柑橘類の名前がのっていました。食堂に向かって歩きながら、私はマリさんと話しました。マリさんの方から話しかけてきたのです。
「わたしね、みかん食べられないの」
「そう、苦手なのね」
「うん」
「どうしても食べられなかったら、食べなくていいんだよ。みかんが好きな人もいるでしょ。だから、好きな人にあげてもいいよ。私も好きだし・・・」
「うん。・・・前に食べたことあるけど、すっぱかった」
「そう。そういえば、マリさん『きんぴら』嫌いだったんだって?」
「今はね、食べれるよ。食べたらね、おいしかったの」
「良かったね、おいしい物がみつかって」
「うん。・・・先生!」
「なに?」
「私ね、みかん食べてみる!」
「えっ?いいんだよ、無理しないで」
「食べてみる」

そして、その日マリさんはみかんを食べました。とてもすっぱそうな顔をして。


その後、マリさんはみかんを食べられるようになったでしょうか?「いいえ」であり、「はい」です。食べたいときは食べるけど、やっぱり好きにはなれないから、多くの場合は好きな人にあげています。

そう、マリさんは自分で決めることができるんです。そして「今日はがんばって食べてみよう!」と笑う日も、たまにあります。





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