23 お名前? 3


サトちゃんが『ノンタンのたんじょうび』以外の本を選び始めました。「ノンタン ブランコネ」「ノンタンオヨグノダイシュキ」と言いながら選ぶようになりました。もちろん一回目は「タンジョウビ」、そして次は他の本も読んでみようかなという感じです。


本を選ぶ時の様子で、サトちゃんがちゃんと見ていることがわかるようになりました。見たいものがあればもちろん、そして見るもの(その対象)をきちんと伝えればサトちゃんは見ようとする人だとも教えてもらいました。

朝の会で友達の名前を呼ぶ時は立ってその人の前に行ってみようと提案しました。サトちゃんは朝の会で<写真カードを見て名前を呼ぶ係>でした。カードを見分けるのが苦手だからと、教員が最初の一文字を言ってあげることを続けていました。

立って行くようにしたら、サトちゃんは歩いて友達の前に行き、じっと友達を見てちゃんと名前を呼んだのです。ちょっと離れたところにお布団を敷いて横になっている友達もその方向に身体を向けて、教員と一緒に腕を差し向けると、その友達の名前を呼びました。


ある日、大型絵本の『ぞうくんのさんぽ』を授業で読んでから、「ホン。ゾウクンノサンポ」が合言葉になりました。大型絵本は教室にはないので、毎日給食を食べると歩いて図書コーナーに行き、そこで『ぞうくんのさんぽ』をさがして読みました。サトちゃんは5、6冊の大型絵本の中から『ぞうくんのさんぽ』を見つけます。象の役と他の動物の役をサトちゃんと私と二人で分けて読みます。サトちゃんはとてもよく聞いていて、よどみなくセリフを言えます。そして読み終わると大きな声で「オシマイ」と言うのです。


サトちゃんは高等部に進学しました。高校生になったサトちゃんとはあまり会わなくなりました。5月のある日の昼休み、体育館の真ん中に椅子を置いて担任の先生と二人で座っているのを見かけました。体育の授業が始まるのを待っているようです。私は近寄っていき、「サトちゃん、久しぶりだねぇ、何してるの?」と言葉をかけました。

サトちゃんは、私の顔をじっと見て、小さな声で「ケンベコシェンシェイ」とつぶやき、それからにっこり笑いながら大きな声で「オカエリナシャ〜イ」と叫びました。


6月も終わる頃、廊下を歩いてくるサトちゃんに会いました。サトちゃんと一緒に歩いていた担任の先生が「サトちゃん、誰か来たよ」と言葉をかけてくれたので「おはよう」とあいさつしました。担任の先生が「サトちゃん、おはようだよ」「お・」と言葉をかけると、サトちゃんは「お」の続きで「ハヨウ」と言ってにっこりしました。

中学生の頃はあいさつの言葉は「コンニチワー」と決まっていたのに、「おはよう」が言えるようになったようです。「サトちゃん、おはようって言ってくれたね」と私が言うと、さらにうれしそうに「キャーッ」と大笑いしました。

「サトちゃん、この先生誰?」と、担任の先生が聞くと、サトちゃんはじーっと私の顔に視線を止めて「ケンベコシェンシェイ!」と言いました。それからうれしそうに3回繰り返して言い、「ホン、モッテコヨウカ」と叫んだのです。

このサトちゃんの言葉に私は感激しました。しかしその場で本を読むことはできません、ちゃんと伝えなければという思いで「サトちゃん、先生は用があって事務室に行きます。サトちゃんは、教室へ行ってお勉強だね」と言いました。サトちゃんはもう一度じっと私の顔に視線を合わせたあと、私の顔に自分の顔を近づけ「チュッ!」と言って、教室に向かって歩き出しました。





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