22 お名前? 2


サトちゃんが中学部3年生に進学した年、私はサトちゃんの担任チームの一員のように過ごすけれど担任ではないという、忍者のような存在になってしまいました。中学部のまとめ役という立場はともかく、子どもたちから見れば『クラスの先生』にしか見えないだろうから、そのようにかかわろうと決めました。

サトちゃんと一緒に給食を食べ、昼休みを主に過ごしました。朝しばらく一緒に過ごせることもあります。「ホン」と言うサトちゃんに、「本読むの?なんの本読もうか?」と初めの頃は聞いていました。サトちゃんの好きな絵本を数冊用意しました。けれど、次第にサトちゃんは「♪ノンタンタンジョウビ」と、歌うように言うようになりました。

私はサトちゃんと並んで座り『ノンタンのたんじょうび』を読みます。サトちゃんは大きな声で一緒に読みます。そして、読んでも、読んでもノンタンの日々が始まりました。

毎日、毎日『ノンタンのたんじょうび』を読みました。「ノンタンネ」と言って繰り返し読みます。読み始めと最後のところで必ず『ハッピーバースディ』の歌を歌います。一回読み終わると「モウイッカイネ」と言って繰り返しです。

このような毎日がしばらく続くと、私はこの<ノンタン道中>の向こうが見えない気になってきました。こんなことをしていていいのだろうかとか、いつまでノンタンばかり読んでいるのだろうかとか雑念が頭をもたげてくるのです。

ある朝、サトちゃんが「ノンタンネ」「ホンヨモウ」を繰り返し言っていたのですが、「後でね」と答えて、私は連絡帳を読んでいました。その時、初任二年目の男の先生がさっとノンタンの本を取りに行き、「これでしょ」と言ってサトちゃんのそばに持って行きました。サトちゃんは一瞬にしてノンタンの本を見た、見たのだと思います。花咲くように、サトちゃんは笑顔になりました。そのサトちゃんの笑顔を見て、私は目が覚める思いでした。あわててサトちゃんに寄り添い、ノンタンを読み始めました。

たぶんこの日を境に、私は行き着くところまでサトちゃんとの<ノンタン道中>につきあおうと考えたように思います。

前年度、初任の彼に『子どもの気持ちに添うように』と伝えたはずなのに、逆に私が教えてもらいました。


絵・三角マット

給食が終わるとサトちゃんはかわいい声で「ホン」と言います。机に向かって読む時もあり、「ネンネ」と言ってじゅうたんの上の三角マットに寝転がって読む時もあります。

ノンタンの本を持ってきて二人並び、サトちゃんは「ノンタンタンジョウビ」と言いながら本の表紙をポンポンとたたきます。顔が右を向いていて視線が前に止まらないので、私にはサトちゃんが本を見ているようには見えないのですが、サトちゃんは自分の見方で表紙を見ているのでしょう。

私が「ノンタンのたんじょうび」と言うと、サトちゃんは「♪ハッピバスデーツーユー」と歌い出します。そして、ワンフレーズ私が言うと、サトちゃんが次のフレーズを続けて言う時もあるし、「うさぎさ〜ん」「ナニモッテルノ」「な〜いしょないしょ」「ノンタンニハナイショ」と細かく分けて読む時もあります。

サトちゃんとのノンタン読書は色々なバージョンに変化して、サトちゃんは日々その変化を楽しんでいるようでした。時には二人で二重唱のように読み進んだ日もあります。


そしてある日「ホン、ノンタン」と言ったサトちゃんが、「ケンベコシェンシェイ、ホンネ」と続けたのです。私はびっくりしてサトちゃんを見ましたが、サトちゃんはいつもと同じ・・・、ただただノンタンを読むという期待に胸を膨らませているようでした。





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