17 「 yes or no? 」 の2


秋さんのご両親と担任、管理職などの話し合いがあるとのことで、私はそこに同席することになりました。そこでの話はこれまでの経緯の説明と保護者の質問に答えるという流れだったので、私は黙って聞いていました。

話し合いの最後の方で、それまで黙って聞いていたお父さんが質問されました。これまでの経緯に関する担任への質問が二つ。そして、もう一つは次のような質問でした。

『先生方も言われる通り、秋は言葉が話せない。yes,noがはっきりしない。それは親もそう思う。では、それを乗り越えていくために、先生方はどのようにしたらいいとお考えですか?』

担任への二つの質問には答えられませんが、最後の質問に私は発言させてもらいました。私は二つの問題があると思うと応えました。一つはこちらの問い方の問題です。何を聞かれたのか秋さんにはっきり伝わるように工夫していく必要があると。次に秋さんが自分の意思を表す方法を、具体的に工夫する必要があると。

秋さんは自分の意思を持っています。しかし、それを顔の表情だけで全て伝えるのは彼女に麻痺があるからということではなく、誰にとってもとても難しいことです。

そして、数学の時間に今考えている教材を使ってやってみようと思っているところだと応えました。お父さんは私の話をずっと黙って聞いておられました。


次の数学の時間さっそく考案した教材を使って座標の学習をしました。{縦ABCDE}{横12345}の大きな表を机に広げ、質問します。質問のためのABCDE12345の各文字を書いたカードも用意しました。手が動かせる生徒は座標上のマスに印を置いて応えます。秋さんの番です。

「『B4』はどこですか?」秋さんはそのあたりをじっと見つめます。でも正確には伝わりません。私は赤く塗った細い棒を出しました。

まずAの軸に乗せます。「ここにありますか?」そして秋さんの前に《はいいいえ棒》を出しました。秋さんは大きく腕を動かして『いいえ』を叩きます。次にBの軸に赤い棒を乗せて同じように聞きます。秋さんは、今度は『はい』を叩きました。赤い棒をそこに置いたまま、同じようにして今度は1の行に緑の棒を乗せて質問します。1の次は2,3,そして4で『はい』。最後に赤と緑の棒が交わったところに印を乗せて、「ここでいいですか」と聞き、秋さんは元気に『はい』と答えました。

絵・はいいいえ棒

その後《はいいいえ棒》が活躍し、数の大小、加減算、などの学習を進めました。〔教科グループ〕の他の教員がのぞきに来て、「おっ、出た。はい叩き棒!」などと言うのを聞きながら秋さんは大笑い。

秋さんは『はい』を叩く時には口でも「はい」と言い、『いいえ』を叩く時には口で「いいえ」と一生懸命言いながら叩いていました。なかなか音声がはっきりしない秋さんですが、「は・い」と「い・い・え」の音節の違いが明瞭になってきて、yes,noの意思表示は分かりやすくなりました。

秋さんとご両親が私たち教師に大切な問い掛けをしてくれたのは2学期の半ば、それからその年度が終わるまで、私は秋さんと週に1回の数学の学習をしました。

3年になって、秋さんは今まで通り〔自立活動グループ〕のクラスで自分のペースで学習を進め、素敵な笑顔で卒業しました。『はいいいえ棒』は、新しい担任のアイディアで車イスの左右の腕のところにそれぞれ『はい』『いいえ』の印をつけて、日常的に活用できるように工夫されました。




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