15 飛んだ!


孫のトイ君が、ようやくお座りできるようになった頃のことです。

お座りをして色々な物をつかんだり放したり、この頃のトイ君の気に入りの行動です。特に洗濯バサミが気に入りで、ママが洗濯物を干している間ずっと遊んでいます。仕事が休みの日には私も側にいて、楽しそうに笑うトイ君と一緒に遊びました。

洗濯バサミをつかんだり、放したり、寄せ集めてみたり、バラバラにしてみたり、遊びの仕草は様々で飽きないようです。


その日のトイ君はどうやら洗濯バサミを投げようとしている様子です。洗濯バサミを握った腕を、何回も肩まで持ち上げては放しますが、もちろん洗濯バサミは飛ばず、下に落ちるばかりです。トイ君のめざすところを感じた私は、一個の洗濯バサミをトイ君の前にポンと放りました。案の定、トイ君は大喜び。大きな声で笑いながら手を叩きます。

写真・洗濯バサミを投げる

そして、再び、自分も放ることに挑戦しました。

私が投げる、トイ君がキャハハと笑い、自分も洗濯バサミを一生懸命肩から落とす。そんなことをしばらく繰り返していました。


そして、その瞬間が来ました。たまたま私が投げた洗濯バサミと、トイ君がちょうど手から放した洗濯バサミがぶつかったのです。あっという間にトイ君の手から離れた洗濯バサミは飛びました。

「おっ!」という風に飛んだ洗濯バサミを目で追いかけて、一瞬の間の後、一段と大喜び。そんなトイ君の姿に私まで大喜び。

「飛んだね〜。トイ君が投げたのがポーンと飛んじゃったね」と、話しかけます。


こんなことは子育てをしているとよくある風景です。子どもたちの遊びに大人もはまり込んで、なんだか、楽しい時間をもらって幸せです。

私も自分の子どもを育てているときはもう少しキリキリしてしまっていたように反省しますが、孫と一緒のときはどこかゆとりを持って一緒に楽しむ時間を持てるように思います。休日に孫と遊ぶのは私にとってとても幸せな時間です。

でも、その日のトイ君が次にしたことは、なかなか出会うチャンスがない出来事だったと思います。

トイ君は、大笑いをした後再び洗濯バサミをつかみ、ポーンと放り投げたのです。そしてキャハハと笑ったのですが、さっきまであれほど練習して出来なかったことを、まるであたりまえの仕草のように力まず、ポーンと。

その後は、もう何度も、何度も洗濯バサミを飛ばしていました。


私の中に残るあの一瞬、トイ君は自分の手から離れた洗濯バサミが飛んでいく軌跡を目で追っただけです。腕を持ち上げ、前に押し出すどの瞬間で指を開いて放すのか、何も教えられた訳ではありません。私たちの学びは、目で見て理解した時に筋に指令を出せるものなのでしょうか。それともあのできごとは、ただの偶然だったのでしょうか。

この記憶に残る印象的な出来事が、子どもたちの行動を獲得することと、つまり私の仕事だった筋の活動の学習とどう結びつくのか分からなかったので、この出来事はずっと私の心の底に沈んでいました。今も結論じみたことは何も言えないのですが、そんな事実があるということも、大切なことなのではないかと思えるようになりました。


その後成長したトイ君は地域の野球チームで活躍し、中学校の野球部に入りました。





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