14 油絵を描きたい


養護学校の通学域は広く、いくつかの市町にまたがっていることが多いのです。そして、市町村立の小学校中学校に通学している児童生徒が途中から養護学校に転校してくることもまれにあります。逆はあまり例がありません。


私が中学部の担当だった秋の始まりの頃です。地域の中学校から相談がありました。身体的に通学が困難になってきたこともあってか、欠席しがちになり、最近はほとんど学校に来なくなった生徒がいるとのことです。次年度から養護学校への転学も視野に入れて、見学をしたいとのことでした。

本人も来られるという話だったので、ありのままを見てもらって本人が納得できるように進路が決まっていけばいいと思いました。

見学当日、中学の担任の男性教師と、ご両親と一緒に彼は来校しました。はにかみがちで無口な男子生徒ですが、電動車椅子の操作はとてもうまく、安心して見ていられます。彼と同学年のクラスに紹介し、学校のことを説明しながら授業を見学しました。

彼、ショウ君は絵を描くことが好きだそうです。「一度油絵を描いてみたいと思っているんだ」と話した時には、心なし顔をあげて、頬が輝いたように見えました。

担任や両親、そしてもちろん本人と話し合って、次年度に向けて週に1回養護学校に通ってみることにしました。私の時間が自由になる曜日に来校して、油絵を描くことに決めたのです。昼食は、同学年のクラスで一緒に給食を食べることになりました。

『油絵を描くこと』は楽しそうだけれど、ちょっと敷居が高いと感じられる活動です。体が自由に動いたり、お金も自由に使えたりできる大人なら、絵具や画材を買ってきて、キャンバスを広げて自分の思うように絵の具を混ぜ合わせて筆で塗っていけば良いのです。でも、そういう大人でも、いざ画材をそろえてみたら絵の具の匂いがダメで、諦めたという人を知っています。テレピン油の匂いもきついでしょうか。

私の生徒たちは、どの程度続けられるか分からないうちに高価な絵の具のセットや必要な画布、画材を購入することにためらいを感じるようです。ちょっと描いてみたいと言って買うには高価です。

幸い私の家には油絵の具の道具が一式あります。キャンバスも、筆も、特別なこだわりがなければすぐ描けます。私も夫も、娘も油絵と仲良しだからです。そして、私は道具をそろえたはいいけれど、しばらく埃が厚くなるにまかせている始末だったのです。その可哀想な道具に魂を入れてもらうつもりで提供しました。


その後ショウ君は休むことなく来校しました。大きな動きは苦手だけれど、細かい手先の動きなら自由自在です。静物を描くということで、いくつかの素材の中から選んで描き始めました。

当時、中学部のまとめ役として事務的な仕事もとても多かった私にとって、ショウ君との絵を描く授業はとても嬉しい時間でした。ただ、私は油絵の指導をするにはとても力不足だったので、彼の気持ちを支え、環境を整え、一緒に対象に向かうということだけは一生懸命やりました。

少しずつ、少しずつ絵は出来上がっていき、クラスの仲間とも話し合う姿が見られるようになりました。そして、地元の中学校にも通う日が増えてきたそうです。

ショウ君は、新年度から養護学校に転入してきました。

私の授業はおしまいです。新しい学年の担任グループには美術専門の教師もいて、彼は油絵を続けました。時々見に行くと、相変わらずちょっとはにかんだ笑顔で、存在感のある力強い新作を見せてくれました。





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