13 美術って?


「この子たちにとっての美術って何でしょうか」

唐突に若い教師が聞きました。彼が言う「この子たち」とは重度の肢体不自由があり、ともすれば感覚器官にも障がいがあったり、知的にも遅れがあったり、言葉が話せなかったりする子どもたちのことです。

音楽や美術は知的な活動だけではなく、感覚器官を使って感動に直結する活動です。「この子たち」にどのように展開していくのか、悩みの連続です。

私は、かつての美術の時間を思い出しました。肢体不自由課程の高等部の美術を担当していたときのことです。


夏休み前に宿題を一つ出しました。『手のひらに乗る程度の石を一つ見つけてくる』という宿題です。チャンスがあったらという条件付きで。車椅子で過ごす生徒たちにとって、石を拾える場所に出かけるチャンスをつかむのはなかなか難しいことですから。私自身がいくつか用意しておくことにしました。

その石の形に何かイメージが湧くものという条件も出してありました。


2学期になって、ほとんどの生徒が石を一つ持ってきました。みんな『こんなものを何にするんだろう?』という表情で、机の上に載せています。

私は蛍光絵の具や、蛍光マーカーを用意していました。
「その石はみんなにとってどんな風に見えたの?そのイメージを石に描いてください」

実は2学期最初の授業、夏休み明けの散漫な気分の生徒たちがちょっと集中できればいいかな〜と、考えて設定した課題だったので、さっと終わるだろうと思っていました。

ところが、手のひらサイズの世界、自分の自由に描く、あまり使ったことがない蛍光色などといういくつかの要素が生徒たちに魅力だったのか、みんな無言で作業しています。その日だけでは終わりません。

生徒たちが自分のイメージを石の上に再現しようと夢中になっているとき、私は一つの教材を用意しました。段ボールで作ったブラックボックスです。全員の石が並べられるくらいの大きさ、中も外も真っ黒。イスに座った生徒の目がちょうど届くくらいの場所に小さな覗き穴が一つ。

ところが私は採光をどのようにしたか、覚えていません。あまり昔のことなので、細かいところを忘れてしまいました。ただ、何度も実験をして、一番良い方法にしたことだけは覚えています。懐中電灯を使ったのか、自然光を入れる穴をあけたのだったか・・・。


全員の作品が出来たので、一人一人箱に入れてもらいました。このときは、箱はオープンになっています。ただ並べるだけなのに、みんな集中しています。

そして、ゆっくり一人ずつ覗き穴から覗いてもらいました。みんなの作品が黒い箱の中で浮き上がって見えています。『お〜』『きれい!』『すごい』・・・様々な感嘆の言葉が聞かれます。全員が見終わった時に一人ずつ短い感想を発表することにしました。

この美術のグループには、3年生のとても無口の女子生徒がいました。自分から口を開くことはほとんど無く、質問にもハイかイイエくらいしか応えません。彼女にとって感想を発表するのはつらい設定だったかなと思ったのですが、他の生徒たちには言いたいことがいっぱいある様子だったので、その時間をもうけることにしました。

ところが、その彼女が、突然話し出したのです。自分がどんなに感動したかを!

何が彼女の言葉を引き出したのかはわかりませんが、彼女の内に閉じ込められていたたくさんの思いが言葉となって溢れ出てきたのです。





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