10 どこでも調べたい


昼休みに、小学部のゆう君と担任の先生が「こんにちは」と、教室を覗きました。 「いらっしゃい、2階にあそびにきたの?」「うん」。
「お名前はなんていうの?」「ゆうです」。廊下からのぞいたまま話をし、教室内の様子を確認したらしいゆう君は、「行く」と大きな声で言って、自分で車椅子を操作して教室に入ってきました。奥の窓側にある教員の机の上には細かい文具などが置いてあります。まっすぐそこへ近づいて行きました。

「ゆう君、面白いものあった?」と聞いても「・・・」調べるのに夢中です。引き出しを開けて中のものを一つずつ手に取っては下に落としたり、机の向こうに投げたりしています。これまでも色々な教室に入っては引き出しを開けてみんな放り出してしまうので、最近は禁足令が出ていると、担任はこっそり教えてくれました。


見つけたものの名前をつぶやきながらよく見ています。引き出しの中の物は何でも手に取りますが、「危ないものがありましたね。先生に頂戴」と手を出すと、カッターなどは渡してくれます。

百円玉を1個見つけました。しっかり握って、「ひゃくえんだ」と嬉しそうに言いました。「それは教室のものだから先生に返してね」と言うと、ゆう君は百円玉を口にくわえてしまいました。「あら、大事なものだからお口にしまっちゃうの」と聞くと首を振ります。少しニヤリとしながら。

「じゃ、先生の手に入れてね」と言いながら両手をそろえてゆう君の口の下に差し出し、「1、2の3!」と言うと、3のところでぱっと口を開けて放しました。

私は引き出しのような浅めの箱を持ってきて、「ゆう君、調べるの上手だね」「調べたものはここに入れてくださいね」と、ゆう君の隣に差し出しました。


それから、一つ一つ丁寧に調べ続けるゆう君の表情にあわせて、「これはね、先生がこうやって使うもの」などと話しかけました。ゆう君は机の引き出しから色々なものを出しては眺め、箱の中に入れていきます。下に落としたり、投げたりすることはありません。


そして、その中から気に入ったものらしい三点を自分の車椅子に置きました。

それらを発見したときは「セーラームーンだ(教材として買ったもののおまけのバッジ)」「カードだ(卒業生が作った名刺見本)」「これ、ふくろ(マグネットが入っていた細長い透明のビニール袋)」と、発見した物の名前を言い、「欲しいの?」と聞くとうなずきました。

そして、「この教室ではもう使わないものだから、欲しいのならあげるよ」と私が話すのを聞いてから車椅子にのせていました。


二つの引き出しを調べ尽くすと、最後にゴミが残りました。それまでずっと後ろに立ってハラハラしながら見ていた担任の先生が「じゃ、そのゴミは捨ててあげようか」と提案してくれたので、
「先生のクラスはこれから授業が始まるので、今日はこれでおしまいにして、ゆう君はゴミを捨ててくれますか」と訪ねると、元気な声で「うん」。

ゴミを持って、車椅子を自分で操作して教室を出て行きました。膝の上には3つ宝物を乗せて。出口で「さようなら」と言う声は大きな声でした。

「いっぱい調べさせてもらって良かったね」と言う担任の声が遠ざかって行きました。





  • サブメニュー3のイメージ画像 次のページ 3-11「やりとり(人間ウォッチング)」へ

  • サブメニュー3のイメージ画像 Gallery3特別支援教育へ戻る

  • サブメニューホームのイメージ画像 ホームへ戻る