1 歌のカード


孫のソオ君は2歳を過ぎたばかり。
「ばぁ、この歌知ってるよ」と、うれしそうな声で話しかけてきました。洗い物をしていた私は、ソオ君の方を見ないまま、「あらそう?」生返事をしました。
「まいごのまいごのこねこちゃん~」ソオ君の歌声が聞こえます。まだ字が読めないソオ君ですが、うたうことは好きなようです。

「上手ねぇ」と言いながら振り向くと、ソオ君は小さな手に1枚の紙を持っていました。私は飛び上がるような気持ちでソオ君の隣にしゃがみました。洗い物はそっちのけです。
「ソオ君、凄いねぇ、その歌知ってるの」

ソオ君は「うん。これもしってるよ」と、もう1枚手にしていた紙を前に出し「とんぼのめがねはみずいろめがね~」と歌いだしました。

そして私の手を引っ張ります。ソオ君が遊んでいた部屋の隅のおもちゃ箱の周りには、はがき大程度の紙が散らばっています。

ソオ君は大事な用があるとばかりに、また別の紙を私の方に差し出して、「このうたわすれた」
「それは雨降りくまさん~だよ」と言うと「あ、そうだった」。
それから、カードを見ながら歌ったり、「このうたおしえて」「それはね〜」と言ってお話をしたりしながらひとときをすごしました。


この紙には私が歌のイメージを表した絵と、ひらがなの題名が描かれています。何年か前に小学生の女の子の教材として作った「歌カード」です。その女の子は転校して行き、行った先で高等部も卒業したので、歌のカードは我が家のおもちゃ箱の底に沈んでいました。
ソオ君に見つけられるまで。


女の子は歌が大好きでしたが、言葉を話すことができなかったので、「どの歌を歌いますか?」と聞くときにこのカードを差し出し、選んでもらって一緒に歌を楽しんだものでした。女の子は手を思うように動かすこともできなかったので、じーっと見る目の動きや、好きな方に体を傾けて寄って行く様子などで教えてもらいました。とても体調が良いときには、両手を会わせて1枚の紙をポンとたたいて教えてくれる時もありました。


当時は思いつく限り、彼女の好きな歌をうたいながらカードを作ったものですが、心のどこかで《このカードを見て何の歌かわかってくれてるかなぁ?》という不安があったのです。


でも、何年も経って、ソオ君が「このうたしってるよ」と言ってくれて、私は心の奥に溜まっていた《本当に通じていた?うまくやり取りできなくてごめんね》という思いを少し慰めることができたのでした。

写真・歌カード画像
歌カード





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