9 地附山(長野県)733m
        四季:2013年5月〜2016年6月

地図・地附山


2013年5月、長野に引っ越してきた。善光寺平の北の端、市民に親しまれてきた歴史ある地附山の麓。引っ越してすぐ、玄関から山靴を履いて歩き出した。以来、夫と二人で、孫たちと一緒に、たまに一人で、山好きな弟と一緒に・・・と、何度も訪れている。

私は「じつきやま」と呼んでいたが、最近知った『地附山トレッキングコース愛護会』のガイドブックを見ると「じづきやま」とルビがふってあった。この冊子を見ると、地附山の歴史や自然だけでなく、コースを整備するときの苦労などもよく分かる。

昭和60年(1985年)に起こった大きな地滑りを忘れないようにと、『防災メモリアル地附山公園』と名付けられた中腹の公園周辺から二つのコースが山頂に向かっていて、山頂近くにはまた何本ものトレイルコースが整備されている。


初めて登ったのは、5月半ば過ぎ、緑が揺れて、花々が動き出す季節。

登山口の駒弓神社の立派な鳥居をくぐるともう森の中だ。神社に頭を下げ、奥の金毘羅宮にも寄り道して行ってきますと挨拶して歩き始めた。

整備されている道を進むと、真新しい看板があった。近づいてみると標高634mを示す看板だった。東京スカイツリーと同じ標高だという、スカイツリーの写真入り。


写真・一面ヤマブキの花
ヤエヤマブキ

「う〜ん、ちょっと興ざめ。もうちょっと目立たないおしゃれな標識だといいなぁ」と話しながらさらに登ると、見晴らしの良いテラス状の広場に着く。パワーポイントという看板が立ててある。長野市の北側から須坂、小布施方面の扇状地形が見渡せる。その向こうには菅平高原、志賀高原の山々が一望だ。

写真・一面ヤマブキの花
斜面いっぱいに咲くヤエヤマブキ

後ろの斜面にはヤエヤマブキの濃い黄色が斜面を被うように重なっていて美しい。一重のヤマブキが一足先に咲き終わるようだが淡い黄色が所々に残っている。

ここで一息ついて、あとは一気に山頂まで。森の中を抜けると、目の前に雪をかぶった妙高山が眩しい。手前左に黒姫山、そしてその左に大きくそびえる飯縄山。

「みんな登ったね」と、夫と頷く。黒姫の七曲がりは大変だった、妙高と火打の間の湿原は言いようもなく美しかった・・・と、思い出は共通だ。

写真・飯縄山、黒姫山、妙高山

地附山のコースは、登山というにはちょっと遠慮がある。崖や急峻な道はなく、整備された歩きやすいコースだから。トレッキングという言葉がやはり合うのだろうか。もちろん、高さや険しさのみで山を云々するつもりはないのだが。

山頂からの眺めを楽しんだ後は、スキー場の跡地を越え、隣の大峰山まで足を伸ばした。下調べもせず気が向くまま歩いたが、緑濃く鳥の声も多い山だと感じた。


写真・モウセンゴケの花
モウセンゴケの花

中腹にウメガサソウが咲くというので出かけたが、最初の年は花の季節を間違えて、みんな実になってしまっていた。しかし、思いがけず山頂奥にモウセンゴケの群落があり、その花盛りだった。あれは7月か。今まで見た中で最も葉の小さなモウセンゴケ、花も小さな純白だ。くるくると巻かれた蔓のような花穂がどんどん伸びていって、その先からいくつもの花が順番に開いて行く。5枚の白い花びらが眩しい。

今度こそはと6月に入ってすぐ出かけたら、今度はまだ蕾ばかりで、ふたたびがっかり。しかしこの時は公園へ降りて行く広い道がエゴの花びらで敷きつめられて、どこまでも真っ白という素晴らしい景色に出会えた。

写真・一面エゴの花が引き詰められた道
6月初旬 エゴノキの花の絨毯

何回かこの季節に登るうち、クモキリソウの地味な緑色の花を発見したり、ヤブの奥に華やかに咲くカキランを見つけたり、小さな里山ではあるが、花の好きな私たちには嬉しい発見も多い。

写真・イチヤクソウ、カキラン、クモキリソウ
イチヤクソウ、カキラン、クモキリソウ

もちろん、ウメガサソウの咲く時期には何回も登って、まぁるく膨らんだ蕾や、うつむきかげんに咲く花々を眺めて歩いた。とても小さな株が落ち葉に埋もれそうになっていて、枯れてしまうのではないかと心配になってしまう。そっと被っている大きな落ち葉を取り去ってみたこともあるが、あまり人がいじらない方がよいのだろうかとも思って、眺めるだけで過ごす時もある。

写真・ウメガサソウ
ウメガサソウ

他県では絶滅危惧種とされているところもあるそうだ。長野では他の山で株を見つけたこともあるが、地附山のように群落になっているところは貴重だろう。大切にしたいものだ。


夏の里山は暑いからあまり歩きたくない気もする。でも、神奈川から遊びに来た小学生の孫たちと虫取り網を持って登った。カブトムシを捕まえたくて、大きな網を買ってきた男の子たちは疲れも見せず山頂まで歩いた。目当てのカブトムシは一匹だけ捕まえることができて、地附山公園のミニアスレチックで遊んだ後はエサや飼育ケースを買いに行くことになった。彼らはその後もう一回公園まで遊びに行き、そこで出会ったオジサンからもう一匹カブトムシをもらってきた。飼育ケースの中で長野の土に潜り込んだ地附山の2匹のカブトムシは、そのまま神奈川まで旅をすることになった。

余談だが、つづらトレイルと名付けられたコースの登山口となっている『防災メモリアル地附山公園』は自然の起伏を活かしたロング滑り台や、ミニアスレチックがあり、ボールなどの遊具も借りられるので、孫たちは大喜びで走り回る。


写真・マツムシソウの花
マツムシソウ

9月も半ばを過ぎると長野は一気に秋の気配が濃くなる。地附山にも、オケラ、ワレモコウ、センブリと、秋の花が咲く。山頂への最後の登りは、まず道の向こうに妙高が現れて思わず今日はきれいだと声が出る。それから山頂(正確には山頂肩のポイント)に立つと黒姫、飯縄がどっしりと目の前にそびえ立ってくる。そして、マツムシソウが風にそよいでいるのを見つけた時は「わぁ〜」と叫んでしまった。私の大好きな花だ。一息ついて、スキー場跡に行けば、ウメバチソウも柔らかい純白の花を開いている。


この季節にはキノコもたくさん見られる。森の中を歩いていると、奥でガサリと音がしてびっくりするが、キノコ採りの人がのっそりと現れて「こんにちは」などとあいさつしてまた森へ消えて行く。

写真・各種キノコ
ホコリタケ・左 タマシロオニタケ・中 チャモエギダケ・右

私たちは写真に撮って帰るだけだが、その写真をキノコ図鑑で調べても、なかなか名前が分からない。ドクベニタケ、タマシロオニタケ、チャモエギダケなど、色や形が独特で特定しやすいものは分かるのだが、同じような茶色のキノコはお手上げ。そう言えば、ホコリタケは団子のような丸い天井の小さな穴から煙のように胞子が飛ぶので面白い。ちなみにこれらは全て食べられない。

写真・ツルリンドウの花と実
11月 ツルリンドウの花と実


写真・紅葉
紅葉

11月になると、山は眠りに入る準備をしている。最後の饗宴とばかりに、森は赤に黄色に染まる。花々も少なくなるが、ツルリンドウの花が控え目に咲いている。脇には実が鮮やかな赤紫に膨らんできている。とてもつややかな実だ。ツルアリドウシの小さな赤い実も足元に広がる葉の陰にポツポツと散らばっている。この実は、春に白い花が開く時もまだついていることが多い。動物に食べられないのだろうか。

写真・地附山から見た秋の善光寺平
秋の善光寺平と志賀とその周辺の山々

もう空気は冷たくじっとしていれば寒さに震えるのだが、澄んだ冷気は遠くまで視界を開いてくれる。善光寺平の向こうの青い山なみの上に浅間山の噴煙が白くたなびく様子を見ることもできる。

写真・地附山から見えた浅間山の噴煙
浅間山の噴煙


春の訪れは、雪の下からそっと忍び寄る。2月になれば、日差しの当たる暖かい斜面ではシュンランやショウジョウバカマの蕾がこっそり顔を覗かせているのを見つけられる。山頂付近の日陰にはまだ雪が残るが、その下で大地が目を覚ましているのだろう。


それからの山は大忙しだ。毎週登っても見飽きないくらい、生き物の響宴が始まる。一見静まった茶色の枯れ葉の影を見れば小さな芽が隠れている。一日一日変化している。

霞がかって遠望がきかない季節だが、朝のうちは清々しく遠山も見渡せる。そんな朝一番に登ることもある。我が家の庭で採れたミョウガの味噌漬けを入れたおにぎりは私たちの大好物、山頂での朝ご飯にミョウガのおにぎりを食べるのも楽しいものだ。

写真・桜坂から見た我が家
桜坂から見た我が家

また、花の変化が見たくて一人で登ることもある。地附山を一周して花にあいさつをし、ゆっくり桜坂を我が家に向かって下って行くと、木々の間から遠く下に我が家が見えてくる。カメラを望遠にすると、家の前で手を振る夫が見える。


長野も4月半ばになると桜が満開になる。花見の宴が開かれる頃、私たちは桜を見ながら登り始める。上がるにつれダンコウバイ、キブシなどの黄色い花が迎えてくれる。だが、山の上の森はまだ茶色一色に冬景色だ。この頃は所々にフキノトウの黄緑がみずみずしく、目を奪われる。

写真・地附山山頂付近のショウジョウバカマ
ショウジョウバカマ

山頂近くなると、シュンランやショウジョウバカマが森の中で春を告げている。地附山の森の中はショウジョウバカマの群落が広がり、山頂付近はどのコースを歩いても赤にピンクに花を持ち上げ、私たちを迎えてくれる。

山頂付近には前方後円墳や、それを囲むように古墳群があり、古くから開かれた『ムラ』だったことが分かるそうだ。


写真・地附山山頂付近のシュンラン
シュンラン

私たちは地附山から隣の大峰山まで歩いてくることが多い。大峰山は善光寺平から見上げると地附山の左に見える、地附山より少し高い山だ。また時には右側に連なる桝形城跡まで足を伸ばすこともある。最近新たにコースが開かれて、ロープウェイや遊園設備があった時代のなごりをたどることもできる。

どの季節にも、どのコースにも楽しみがあり、「うちの裏山」という言葉が似合う親しみ深い山なのだ。


今年(2016年)の6月には、ウメガサソウを見にやってきた弟と登った。登山口の駒弓神社辺りには桜の木が多いのだが、どの木も赤い実をいっぱいつけている。私と弟は、その甘酸っぱい実をつまみながら歩き始めた。

例年より気温の高い日が続き、農作物は収穫時期が早まっているとのニュースだったが、山の花も急いで咲いているようだ。

写真・地附山公園で弟と、話は尽きない
地附山公園で弟と、話は尽きない

花穂を伸ばし始めたモウセンゴケを見て、クモキリソウの蕾にもあいさつし、大きく膨らんだイチヤクソウの蕾にも声援を送り、山頂をゆっくり歩いた。

ウメガサソウは花が終わってしまっているものが多かった。それでも、大きな株に大輪の花をつけているものを見つけ、私たちは大喜び。しばらく写真を撮ったり、あっちからこっちから眺めたりして楽しんだ。

ウメガサソウにさよならをして、少し下ればもう公園だ。

公園の展望ベンチに座り、弟が入れてくれた美味しいコーヒーを飲みながら久々のおしゃべりをした。晴れれば善光寺平から菅平の方まで見渡せるのだが、残念ながらこの日は曇っていて山は見えない。それでも、私たちの『山の話』はいつまでもつきない。



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