81 破風岳1999m、土鍋山2000m(群馬県、長野県)
    2019年8月25日(日曜日)

Map 破風岳・土鍋山


「不思議という言葉は安易に使わないほうがいいよ」と、私の尊敬する先達が言ったそうだ。又聞きなので正確な言葉はわからないが、不思議と言ってしまうとそこで思考がストップするからのようだ。けれど、ある日ふと山へ行く、その決まり方にいつも不思議を感じる。

明日は晴れるみたいだよ」と夫。「山へ行こう」「破風岳に行ってみようか」。

前日にこんな会話をして、ようやく晴れた日曜日、おにぎりを作って、朝7時に家を出た。

破風(はふ)岳という名前を知ったのは、最近だ。レンゲツツジが美しいという五味池破風高原自然公園の記事を見つけ、その奥に破風岳の印の▲があった。標高1999m、登山道が明確に記してなかったので、一般には登りにくい山かと思っていた。ところがふと見つけた記事に、破風岳観察登山の案内があった。「あ、登山道があるんだ」「一般募集をするくらいだから危険は少ないのかもね」と、夫と話した。

photo 五味池波風高原自然園
五味池波風高原自然園

登ってみたいと思っている山はたくさんある。指折り数えて、いつか行こうと話していた山も。ところがふっと晴れた日に、知ったばかりの山に向かう・・・不思議だ。


長野から千曲川の橋を渡り須坂市に入る。豊丘地区の山道をただひたすら登る。登り始めるところに『80号カーブ』という標識があった。まさか目的地までじゃないよね・・・と恐れながら進む。カーブ番号は一つずつ減り、結局目的地の駐車場前が1号カーブ。考えてみたら、行き止まりの道なのだから、当たり前だった。

photo 道路で食事中のサル
道路で食事中のサル

曲がっては登り、登っては曲がる、なかなかの山道だ。下に豊丘ダムのダム湖を見下ろして、少し進むと道に何か動いている。「あ、サル」「木の上にもいる」。サルたちは道路に広がって何か食べているようだ。ゆっくり進むと、サルたちもゆっくり道を空ける。まるで仕方がないなぁと言っているみたいでおかしい。ずいぶんたくさんのサルたちが食事をしていた。

サルたちを後に、また登る。しばらく登ると、道はかなり緩やかになってくる。高原の一角に出たのだろうか。しかし、緩やかな勾配になってからもずいぶん走って、ようやく自然園の駐車場に着いた。誰もいない、静かだ。この先にもう一つ駐車場があるらしいよ、そこまで行った方が破風岳に近いみたい・・・たった一つの道案内の地図(須坂市観光協会発行)を見ながら私が言う。駐車場の先の道にはゲートがあったけれど、今は開いている。ゲートを越えて行くと建物が見えてきた。軽トラックに乗った男性が今にも発車しようとしていた。

photo シラカバに葉の影
シラカバに葉の影

駐車場はどこですか?」と聞くと、奥を指して教えてくれた。そして午後4時にゲートを閉めると言う。でも、鍵はしないから、開けて出て、また閉めておいてくれればいいよと笑いながら言う。多分4時まではかからないと思いますが・・・と挨拶して車を駐車場に停める。広い駐車場に我が家の1台だけ。

photo マルバダケブキ
マルバダケブキ


しばらくは作業用の車道を歩く。シラカバやダケカンバの森が気持ち良い。道の脇には小さなネジバナや真っ白なヤマハハコ。しばらく歩くと、華やかな黄色のマルバダケブキが群落になっている。今年初めて見る高原の花に、私は大喜び。道は緩やかに登って行き、周囲はいよいよ高原らしく広々してくる。振り返るとはるか下に善光寺平が少し霞んでいる。ヤマハハコが大群落になって、その間にイチゴの実が赤く光っている。どこまでもただ広いその自然の造形は、人間の小ささを感じさせる。下手な小細工は無用!と言われているみたい。

photo ベニヒカゲ舞う高原
ベニヒカゲ舞う高原

photo 笹の中を行く
笹の中を行く

さらに進むと大平という名前通りの広い草原。ノハラアザミが一面に広がっている。残念ながら花はかなり終わって、茶色になっている。咲いていたら、紫の広がりが綺麗だろうねと話す。トンボがぶつかるくらいにたくさん飛んでいるが、足元に近いところには黒っぽい小型の蝶がヒラヒラと遊んでいる。なかなか素早い。面白い飛び方をするので、無意識に目が追ってしまう。これは長野県の天然記念物に指定されているベニヒカゲだろう。

photo シラタマノキ、コケモモ、アカモノ
シラタマノキ、コケモモ、アカモノ


車道が終わるといよいよ山道、右に根子岳、四阿山を見ながらの道は深い笹の中に続いている。緑に光る笹原に、ウラジロモミなどの針葉樹が濃い輪郭で立っている。笹は幅広く刈り込まれ、ゆっくり話しながら歩けるのは嬉しいが、笹の背が高くなると、見晴らしはなくなる。黙々と歩く。ほとんど傾斜がないかと思える道はしかし、意外に凸凹していて水たまりがたくさんある。コケや、シラタマノキ、イワナシ、マイヅルソウなどが一面に生えていて「ごめんなさい」と言いながら踏んで歩く。シラタマノキは絨毯のように道の縁を飾っていて驚く。コケモモの木も多いが、実は少ないようだ。アカモノとコケモモが、赤いアクセントになっている。

photo 視界が開けた
視界が開けた


笹の中を1時間も歩いたかと思う頃にようやく土鍋山分岐に出た。時計を見ると、30分しか歩いていない。「長く感じたね」、「狐に騙されているかと思ったよ」などと笑いながら、私たちは左の破風岳に向かう。ここまでは誰にも会わなかった、二人だけの世界。ところが、ここからは人声がする。しばらく行くと、右に降りる道がある。一気に視界が開ける。目の前に大きな御飯山、その奥に白根山の赤い山肌、右下には赤茶色い、いかにも火山地という光景が広がっている。そして、なんとすぐ下には何台も車が停まっている、毛無峠。こちら側から登ってくる人が多いんだね。なんだか本当に狐に騙されたような気分だけれど、これは単に自分たちが下調べをしなかっただけ。

photo 破風岳山頂より毛無峠方面
破風岳山頂より毛無峠方面

photo 破風岳山頂より御飯山
破風岳山頂より御飯山

気を取り直して一気に山頂へ。破風岳は長野と群馬の県境にあるが、群馬側は切れ落ちている崖だ。片側は切れ落ちているが、細長い山頂には小広いところもある。ここでおにぎりを食べようねと話していると、女性二人連れが登ってきた。母娘のように見える二人は、わぁ〜と、気持ち良さそうに歓声をあげている。つい二人の写真を撮ってあげましょうかと声をかけてしまうのは私の悪い癖。人と一緒に歩くのは苦手なのに、感じの良い人との出会いは嬉しい。

photo 山頂にて、群馬県側は崖
群馬県側は崖


写真撮影のあとは我が家のおにぎりにパクつく。いつものミョウガ味噌漬けにぎり、今年も採れ始めたが、味噌漬けは去年のミョウガ。美味しい匂いにつられたか、トンボが周りに飛び交っている。道々のエゾリンドウはまだ蕾だったけれど、山頂には美しい紫の一株が歓迎してくれている。ホツツジも満開だ。そして、低い針葉樹はハイマツだろうか。実の形が面白い。雲が多いけれど、群馬側はよく見える。草津方面の山々を眺めながら、山頂のひと時を楽しむ。

photo エゾリンドウ、ホツツジ
エゾリンドウ、ホツツジ


さて、どうしようか。と言うのは、土鍋(どなべ)山2000mに行くべきか、行かざるべきか・・・。などと言うほど大げさなことではないが、このまま先へ進んで、別のルートで高原へ戻るか・・・。まだ時間が早かったので、土鍋山に行ってみることにした。

photo 面白い実
面白い実

山頂からの道を歩き始めると、陽だまりにさっきの母娘らしい二人連れが休んでいた。「気をつけて」と、互いに言葉を交わし、私たちは土鍋山分岐まで来た道を戻る。

ここからは一回下る。刈った笹が敷かれて枯れているが、その茎をうっかり踏むと滑る。気をつけて下っていく。思いの外急な下り、もしかすると今日一番の勾配だねと声を掛け合いながら行く。鞍部に下りると、今度は登り。思っていたより緩やかな道に安心して、草津方面の山や、今登ってきた破風岳の姿を見ながら進んでいたら、突然急な登りになった。岩や木の根がゴツゴツしているので足元に気をつけてしばらく登ると、笹原に飛び出す。

photo 土鍋山登山道から破風岳(左)
土鍋山登山道から破風岳(左)

ここが土鍋山の山頂。山頂との看板の足元に、誰が置いたか小さな土鍋があるのは楽しいが、1999mと書いてある。2000mの三角点があるはずと見渡すが、それらしきものがない。夫が最後のおにぎりをほおばりながら展望の写真を撮っている間に、私はもう少し広く探索してみることにした。

そして見つけた。笹原の中の道を100メートルほど歩いた先の、広い大地の真ん中に三角点。戻って、おやつを食べながら二人の山頂を楽しみ、三角点に挨拶をしてから下ることにした。

photo 土鍋山、三角点は笹の中
土鍋山、三角点は笹の中

私たちが下り始めてすぐ、急な岩場のところで登ってくる人影が見えた。破風岳の山頂であった二人連れ。「またまた会いましたね」、「急だからゆっくりどうぞ」、「山頂はすぐそこですよ」などと道を譲りながら話をしていたら、突然若い女性が「オコジョ!」と叫んだ。見ると、私たちの下の岩の上に小さなオコジョが歩いている。「かわいい」3人の女性が同じ声を上げる。オコジョは岩の上をちょこちょこと歩いて向こうに消えた。

photo オコジョ
オコジョ

思わぬオコジョの登場に、私たちは旧知の仲間のように笑い合った。

三角点の場所を伝え、二人と別れた後は登ってきた道を戻る。長い笹の道はやっぱり長かったけれど、意外が一杯だった幸福感を味わいながら歩いたから足は軽い。今日破風岳に向かったのは、何か(狐かな)に誘われた?・・・不思議。

photo ヤマハハコの群落
ヤマハハコの群落



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