73 斑尾山のふところ2(長野県・新潟県) 
    2019年5月8日(水曜日)


山の花はその年の天候に大きく左右される。今年は元号が『平成』から『令和』に変わるというイベントで、ゴールデンウィークが一段とゴールドを増した。我が家の近くの善光寺は観光地なので、道路は渋滞、境内は人の波と、近所の住民としては嬉しいような、困るような・・・。

そのゴールデンウィークが終わるのを待って、沼の原湿原に出かけた。山の間の湿原こそ、雪の量や、寒暖の差によって花の開花時期が大きく異なる場所だろう。一昨年、連休前に行った時は道路が雪で埋まっていて、近くまでも行けなかった(※1)。昨年はやはり同じ頃、ミズバショウとリュウキンカが綺麗に咲いていて、北斜面に残る雪とのコントラストが美しかった(※2)。(※1斑尾山のふところ ※2春の湿原その1

木道に雪

今年の冬は雪が少なかったようだから、連休後の今では遅いだろうかと思って行ったが、まだ5分咲き程度、遊歩道の木道にも雪が覆い被さるほどだった。4月になっても寒さが厳しく、何度か雪が降った影響だろうか。

私たちが靴を履き替えて足元を整えていたら、大型のバンがやってきた。蛍光色ベストを着た数人の男性が降りてくる。某テレビ局の名前と、ドローン撮影と書いてある。確か昨年は看板などを整備しに来ていた地元の人たちに会ったなぁ。ここには何かしら人の手が入っているということだろうか。


水中のミズバショウ

まずは流れの速い小川沿いに行く。最初の目的はボタンネコノメソウ(ホクリクかもしれない)。なかなか見極められないので、しっかり見てみようと思ってきた。ところが水量が多くえぐれている岸にはネコノメソウらしき姿がない。しばらく探してようやく泥に汚れて、蕾を小さくつけている数株が見つかった。これからなんだね、きっと。近くにはアズマイチゲが小さく頭を下げている。「ごめんね」と言っているみたい。

4月に入って雨量が多かったせいか、木道も水をかぶっているところが多い。ミズバショウはしっかり水中に没して流れに揺れているものが多い。

万坂峠への分岐点

マンサク

ドローン隊は中央の木道あたりに集まっているので、私たちは山裾のコースを回った。所々にリューキンカの明るい黄色が光を放っているが、まだまだ雪と水の世界という感じ。ぐるりと回って、奥はもう一面雪の世界だ。こうなると面白くなる。「万坂峠まで行ってみようか」と話は決まり、雪の中を歩き出す。アイゼンなどは持って来なかったけれど、春先の晴天、日向は土が出ている山道だから登山靴で十分だ。

カナクギノキ

山桜が綺麗だ。木々が雪に押しつぶされて曲がっている。今日の暖かさに溶けた雪から解放されて、時々足元で跳ね上がるやつがいる。こちらはびっくりするけれど、自由になった木は嬉しそうだからいいか・・・。

雪に倒されているから、枝が近い。花が目の前にある。マンサクはまだ凍えながら咲いているようだ。キブシは半分も開いていない。緑の綺麗な花が目についた。クロモジ?シロモジ?そんな仲間だよね。帰って調べたら、カナクギノキというらしい。初めて聞いた面白い名前。小さいけれど、薄緑のドレスを広げたような豪華な花だ。

フキノトウ

いくつかの小川を越えたり、雪の上を滑ったりしながら登っていく。まだ土が出ているところが少ないので、楽しみのフキノトウもあまり出ていない。それでも、雪が溶けたばかりのところから淡いクリーム色の塊がポツポツと見えているのをいただいて進む。勾配が急になってくると、道は小さな川になってきた。しかも始末が悪いことに、雪の下を流れている。万坂峠までは大した距離じゃないはずだけれど、踏み抜くと足首まで水に浸かるのは遠慮したい。林道に出る手前あたりで、引き返すことにした。雪道は堪能したし、今日はもう一つ目的地があった。

川の水は溶けて・・・


雪の上に倒れている木が多い。上に、ということは春先になってから倒れたということだよね。重い春の雪に負けたのだろうか。水の上の雪が溶けてオブジェのようになっているのも楽しい。

ノジコ

雪道を楽しみながらまた沼の原湿原まで降りてきた。鳥の声が空に響く。すぐ近くの枝に止まって歌っている小さな鳥をカメラで狙ってみた。鳥や蝶のように素早く動くものには苦手意識が強い。視力が弱かったせいか、「どうせ見えない」という諦めが先に立つ。けれど山に近くなって(この『近く』は距離ではなく生活のようなものか)、鳥たちにも近くなったら、時々は姿を見ることができるようになった。特に秋から春にかけての木の葉を落とした森の中では、物理的にも見えやすい。写した鳥は帰って図鑑で調べる。夫が熱心に調べてくれる。ノジコという小鳥だった。

アカゲラ(つがい?)

そのあと、今度はアカゲラが2羽先になったり後になったりしながら湿原を飛んでいく。遊んでいるようだ。ふと、大きな木の幹に並んで止まると、しばらくじっと動かない。「お疲れ〜」と、言いたくなってしまう。遠い木に止まったので、私の小さなカメラの望遠レンズにはちょっと難しかったが、頑張った。先日オオアカゲラさんを見たばかりなので、その違いがよくわかる。

オオアカゲラ(2019.5.6 戸隠にて)

話はそれるが、このオオアカゲラには戸隠森林植物園で会った。木道の所々に陣取っている探鳥グループ、コルリがよく見られるというポイントで、関西弁のおじさんに昨日と一昨日に撮ったという映像を見せてもらった。ブルーが綺麗な鳥、いろいろな動作をするところを説明してくれたおじさんは、時々人の前で話もするとかで、学名なども知っていた。私たちが話している横には、コルリを待つ探鳥のおじさんたちが、大きな望遠カメラを構えている。

しばらく話して、私たちは「今日は諦めます」と挨拶し、歩き出した。その時、コルリのエリアとは反対側に、赤いヒラヒラが・・・。「あ、アカゲラじゃない?」と私。夫と関西弁のおじさんも、ちょっと目を凝らして見つけた。「オオアカゲラです!」というおじさんの声に、それまでお尻を向けていた探鳥グループが一斉に回れ右。大きなカメラのシャッター音がカシャカシャカシャ。珍しいというオオアカゲラはゆっくり木を登りながら大きな嘴で木皮を剥いでいく。なかなかの迫力だった。


新緑と山桜が美しい春の山

広い湿原の中央部には、真っ白いミズバショウと、明るい黄色のリューキンカが見事なコントラストを見せている。青い空に芽吹き始めた木々の梢はパステルを箱ごとひっくり返してこすった画用紙のような柔らかく厚みのある色合いだ。しばらく見ていても飽きない。鳥の声を聞きながらゆっくりゆっくり歩く。朝、ドローン隊がいた木道も今は誰もいない。

沼の原湿原は広く、山の襞に入り組んでいるので、場所によって雪どけのスピードも水量も変わる。ミズバショウの成長にも差があって面白い。もう葉が成長して大きな株になっている部分もあれば、まだ白い苞がとんがってツンとすましている一角もある。

沼の原湿原


思わぬ雪上歩きも堪能したので、沼の原湿原を後にして、今日のもう一つの目的地に向かう。帰り道の途中にある『いいづなアップルミュージアム』が、実は今日のメイン目的地。これまでにも何回か近くを通り、いやミュージアムの入り口を素通りしたことも何度かあるが、立ち寄ったことがなかった。ニュートンのリンゴ並木というのがあって、そこに咲くという世界各地のリンゴの花を見たいというのが、私の目的。夫はまぁ、お付き合いというところか。

リンゴの花4種・画面拡大します

リンゴの花はちょうど満開だった。お昼を少し過ぎていたので、まずは花より団子。ミュージアム内のカフェに入る。ここでは骨つきチキンやジビエのカレーもあると調べてある。今日はカレーが食べたい気分という夫。夫はチキン、私はジビエを注文する。しばらくしたら、厨房の方から女性が出てきて「すみません!」。今日のご飯が終わってしまったんだって。う〜ん、残念。気分はすっかりカレーなんだけど・・・、でも他へ行くわけにもいかないし、あるもので間に合わせる事にした。他にはおやきとケーキしかないんだけれどね。周りを見ると、カレーを食べている、あ〜少し遅かったんだね。

さて、コーヒーを飲んで気分を変えて、リンゴ並木を歩く。まさに満開。真っ白に見えるもの、うっすらと紅の化粧をしたもの、そして驚いた事に濃いピンクの花もあった。それぞれの木の脇には産地の国旗や実の写真、由来を説明した看板がある。一口にリンゴといってもずいぶんいろいろな種類がある。

ニュートンのリンゴ

カナダの木も見つけた。「あ、アン(※3)がマシューの馬車に乗ってくぐって行ったリンゴ林」などと勝手にイメージを膨らませる。(※3『赤毛のアン』L・M・モンゴメリ作1908)


そして、あった、ありました。その落下を見てニュートンが『万有引力の法則』を発見したというリンゴの実、その同じ品種のリンゴの木、満開だ。もちろん花に文字は書いてないから、他の花と同じ美しさだ。そこに歴史を読み、想いを重ねて感動できるのが人間の特技というものかな。


雪の原からリンゴの花まで、ちょっぴり春の時間をワープして、満足の帰り道だった。心残りはカレーのみ、やっぱり花より団子か。



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