54 にゅう 2351.8m(長野県) 
   2018年6月21日(木曜日)


山梨に住む友人と「白駒池で合流しよう」と話したのは昨年春。なんだか用が重なって実現しなかった。友人たちはその後時間を見つけて行ってきたという。私たちもそのうち行こうと話していた。今年の春、佐久から八千穂高原まで中部横断自動車道が開通したのを聞いて出かけることにした。

八ヶ岳の麓には夫の妹が住んでいる。妹は長野を時々訪問しているが、私たちは訪ねたことが無かったので、いつかご挨拶に行きたいと思っていた。自動車道路開通をきっかけに連絡をして、帰りに立ち寄ることにした。


濃霧のメルヘン街道

市内が渋滞する前にと、7時に家を出たが、それでも道路は混み始めていた。雲が多い湿り気のある空気で、空模様が心配だ。時々わずかな雨粒がフロントガラスを濡らす。初めて走る中部横断自動車道を終点の八千穂高原ICまで一気に走る。高速を降りるとそのまま国道299号線、別名メルヘン街道だ。麦草峠に向かってひたすら登る。どんどん霧が濃くなって、前が見えない。幸い車がほとんど走っていないので、気持ちは楽だが、ゆるゆると安全運転で登る。

この道は何度も走ったことがあるのだが、ずいぶん前のことなので、キョロキョロしながら進む。濃霧のため、近づいてようやく見えるものが多い。八千穂レイクへの道も何度か通っているがすぐ近くに来て脇のゲートが見えて「あっ、あれだ」と大きな声を出す。懐かしい。湖面に厚い氷が張っている時も、シラカバが芽吹いた頃も、他に人がいない二人だけの世界だった。

白駒池に続く広い木道

さらに進むと八千穂高原スキー場、ここにも数回訪れている。スキー最盛期で、小さなスキー場のリフトを並んで待って乗ったことを思い出す。霧の中に広がるゲレンデの緑を見ながら、今日はノンストップで進む。2カ所道路拡張工事をしていて交互通行だ、この辺りまで来ると霧が晴れてきた。薄日も射して、どうやら雨粒は落ちてこない様子。


物の怪がいそうな森

白駒池への入り口に広い駐車場があり、ここは有料。車を停めて、白駒池へ歩き出す。観光バスも停まっているので、人が多いかと思ったが、森が深いからか、それほど感じない。白駒池まで続く幅広い木道にはさすがにグループらしい人の姿も見えたが、みんな森にカメラを向けて動かないので、静かに感じる。

厚く苔むす森の奥には何者かが住んでいるような気がする。映画で話題になった『物の怪姫』などというのはこういう森がぴったりかもしれない。

白駒池

10分も歩けば白駒池の明るい水面が左側に見えてくる。池の前の小屋は改装中だったが、中で休んでいる人も見えた。帰りに時間があったら寄ってもいいねと話しながら池の前に佇む。池のほとりにはゴゼンタチバナが白い花を開き、コバイケイソウが少し膨らんできた蕾をもちあげている。

ゴゼンタチバナ

一息ついてから、池の岸辺に続く道を先へ向かう。この道は池を一周できるそうだが、私たちは途中で右へ分かれ、湿原からにゅうへ続く道に入る。昨日降った雨が激しい勢いで流れ、ゴーゴーと大きな音を響かせている。少し進んだところでは水の勢いが強く、木道の上に溢れてしまっている。ゆっくり、滑らないように水の流れる木道を越える。

木道を覆う水流

苔むす倒木

沢山の人が歩いたのだろう、登山道は大きな岩がゴロゴロしていて、土は流されている。所々に太い丸太が敷いてあるが、昨日の雨水は丸太の回りに溜まっているので、川の中を行くようだ。私たちは滑らないように注意して丸太を渡ったり、脇のけもの道のようなところを越えたりして、ゆっくり歩いた。白駒池周辺よりも一段と深いどっしりした森がどこまでも続いている。沢山の倒木が倒れたまま苔むしている。あるいはまだ倒れたばかりの姿のものもある。倒れた木ばかりではない、森の木々の幹をも緑の苔が飾っている。

白駒湿原


しばらく森を進むと湿原になる。私の持つ『信州花の湿原を歩く−日野東(写真・文)信濃毎日新聞社−』という本は2001年発行なので、白駒池南方の無名湿原と紹介されているが、今は木道脇に『白駒湿原』と看板が立っていた。オオシラビソ、コメツガなどの針葉樹の古木を見て来た目にシャクナゲの照り葉が気持ち良い。ワタスゲがわずかに穂を揺らし始めているが、最盛期はこれからだろう。

オサバグサ  ミツバオウレン

湿原を抜けると、道はさらに荒れ模様。けれど、オサバグサが白い花を沢山つけていて嬉しくなる。ミツバオウレンも小さいけれど花火のような白い花を苔の上に咲かせている。中には木の幹から芽を出しているものさえある。


苔を撮影する

どこまで行ってもまっすぐ上に伸びた幹が密集している森、けれど目の高さには若木が薄緑の葉を広げている。暗い森の中には苔やシダ以外の植物はあまり見ることができない。

『絨毯のような苔』『緑のすそ模様』などと、苔むす森がもてはやされるようになっているが、私たちはブナの明るい森の方が好きだな・・・などと言いながら一歩一歩山道を登り始める。それでも面白い苔を見つけると、ついしゃがみ込んで写真を撮っている。

ごつごつ道を登る


稲子温泉への道を分けると傾斜がきつくなってきて、水は溜まっていない。けれど、岩と木の根の、ごつごつ道は変わらない。ただ、コイワカガミの赤い色が増えてきて、足の疲れを癒してくれる。今年は色々な山道でイワカガミの花を見ることができた。イワカガミはオオイワカガミ、コイワカガミなどと分類されるのだが、私ははっきり分からなかった。地域の紹介に書いてあるからオオイワカガミだろう。コイワカガミが咲くとあるから、コイワカガミなのだろう・・・というふうに。まぁどっちにしてもイワカガミだから・・・と思っていたのだ。でも、今回その葉のとても小さいことに驚いた。これがコイワカガミなんだと、とても納得したのだ。

コイワカガミ

道を縁取るイワカガミのピンクが濃くなってくると、木々の向こうに空が透けて見えるようになってきた。「稜線だね」「近いよ、きっと」と励ましながら登るが、ここからが案外長い。ようやくにゅうと書いてある小広い平らなところに出た。白樺尾根と地図にある尾根道との合流点のようだ。後ろから若い男性が追いついてきた。ほとんど人に会わなかったので、なんだか嬉しい。その男性もそんな気分だったのか、話しかけてくる。山頂はもう少し先のようですねと、スマホの画面を見せてくれる。現在の自分の位置が分かるらしい。夫が興味深そうにのぞき込み、少し話してそのお兄さんは先へ行った。

にゅうより天狗岳方面


実は今日は夫の体調が芳しくない。最初の木道の辺りで「少し目眩がする」と言っていた。そして段差の大きい石を乗り越える時はクラっとするとのこと。何回か「今日はここまでにしようか」と聞き、「もう少し」ということでやってきた。

「私はそんなに怖い顔をしていなかったでしょう?」「すご〜く怖い顔をしていたなんて言えないよ」と、冗談も言いながら、とにかくここまで来た。ここでもう一度「ここまでにして帰ろうか」と言ってみたが、もう後少しと分かったので、ちょっぴり元気が出たようだ。

にゅう(2351.8m)山頂の三角点

そこから一気ににゅうの山頂直下に着いた。さっき行ったお兄さんが木陰に降りてくる。「そこですよ。上で休もうかと思ったのですが、風が強く寒いので木陰にきました」と言う。岩が露出したにゅうの肩は見晴らしが良かった。大きな岩の上が山頂で、そこには三角点があるだけだと言う。「にゅうと書いた山頂看板が無いんですよ」と、おにいさん。

にゅう山頂にて

ここで十分、夫が山頂の眺めを楽しんでいる間に、私だけ三角点にタッチしに行くことにした。そして、その後、親切なお兄さんに二人で写真を撮ってもらった。


シラカバ林

稜線を周回して行くと言うお兄さんと別れ、私たちは来た道を戻る。さっきまでの体調不良感はどこへ行ったのかというように、夫は快調に降りて行く。目眩も無くなったと言う。ホッとして腹ごしらえ、稲子温泉への分岐点で軽い昼食を食べる。下に降りてから食べようと思っていたので、持ってきたのは、カステラやチョコなどの甘いものだが、十分だ。

どんどん下って、岩ゴロの道になった頃、「足が!」と夫の叫び声。今度は足の指がつったという。今日はどうやら一筋縄では行かない山歩きの日らしい。靴を脱いで少し休み、ゆっくり下る。ようやく白駒池にたどり着いた頃には、妹と約束した時間になっていた。携帯電話の電波が届くようになったので、少し遅くなることを連絡し、安心して駐車場に向かう。

ポワロ君

途中のメルヘン街道は霧も晴れ、白樺の林がきれいに見える。登りでは見えなかったナナカマドの白い花が満開だ。

ようやくたどり着いた妹の家ではコーギーのポワロ君が思いきり飛びついて歓迎してくれた。



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